第43話 贖(あがな)えない者達


 §国際最新技術構築協会INTDAインダ


「理事長、大変です!」

「どうした?」

「グローバルマンディニューヨーク本部にライラック・ゴードンのクローン奪取の為に向かわせた特殊部隊六十名と装甲車両五台が破壊され奪取に失敗しました。それも三分間の間に」

「何だとう!やったのは誰だ?」

「分かりません。ただ無線に聞こえたのは、見えない何かが俺達を襲っているという言葉だけでした。それとクローンからの信号が消えました」


 やったのは一号機か。だが何故あそこに居たんだ。彼女の動きが全く分からない。まさか俺達の行動が筒抜けか。そんな事は無い筈だ。


 俺達の考えを先回りして読んでいるのか。俺はなんと恐ろしい化け物を金瀬に渡してしまったのか。


「技術主任、一号機の破壊だけの目的で良い。急いで開発しろ」

「はっ」


 理事長も無理な事を言う。あの特殊部隊はINTDAインダの中でも精鋭と知られた部隊だ。

 走行車両も対戦車砲では貫通出来ない装甲を持っていた。それを三分間で全滅させるなんて。どの国の機関だって出来ない事だ。一号機は我々の手に負える相手じゃない。


 五台のロボだって、送り込む度に新機能を装備させていたんだ。それをことごとく破壊された。もう手に負える相手ではない。まあ形だけでも作るか。




 俺は翌日、素知らぬ顔でニューヨーク本部に出社しようとして百メートル以上手前で検問を受けた。本部の警備員と警察官だ。IDを見せながら

「金瀬だ。何か有ったのか?」

「はい。昨日、何者かが本部を襲うとして…全滅したようです」

「何だって?!」

 

 俺は驚いた振りをしながら

「CEOはご無事か?」

「はい、CEOは会合で不在でした」

「それは良かった。所でオフィスに行けるか?」

「はい、既に電源は復帰しておりますので問題ありません。地下駐車場に入る辺りが大分汚れていますが、お気を付けください」

「分かった」


 俺は、ゆっくりと車を進めると昨日は暗くて見えなかった惨状を見る事が出来た。信じられない光景だ。


 装甲車の様だが、特殊装甲を施している。倒れていた人間は片付けたようだが、そこら中が黒ずんでいる。綺麗だった芝生が真っ黒だ。


 これを環奈は三分でやったのか。なんて子だ。ソレイユが最高傑作品と言っていたが、環奈が戻って来て以来、覚醒に次ぐ覚醒で全くの別の個体になったんだろうな。


 地下駐車場にマクラーレンF40を停めるとそのまま地下五階に降りた。ここはそのままだ。


 保管庫に行くとライラックのクローンは頭部が灰になったままになっている。片付けるしかないか。チップの事は残念だったが仕方ない。


 取敢えず自分のオフィスに入るとセクレタリが

「金瀬総開発責任者、CEOが出社したら連絡をしてくれと言っていました」

「ありがとう」


 俺はクローズされた自分の執務室に入るとCEOに連絡をした。

「金瀬君か、直ぐに私の執務室に来てくれ」

「分かりました。直ぐに伺います」


 多分、今回の事とライラックの件だろう。だが丁度いい。トラムV4本体だけの稼働を頼んでみるか。



 俺はセクレタリにCEOの所に行くと伝えるとオフィスを出た。CEOのオフィスは別棟だ。だけど地上は歩かない。地下一階にあるビル間の連絡用車両に乗って行く。


 CEOの執務室の前に言ってセクレタリに

「CEOから呼び出しが有った」

「はい、皆さんお待ちしています」

 

 皆さん?どういう意味だ。執務室に入るとCEO以外にグローバルマンディの役員が揃っていた。

「金瀬です。入ります」


「さて、揃ったな。諸君、今回集まって貰った理由は二つある。一つ目は人工皮膚開発責任者のゴードン君が出社しなくなった事だ。


 同業にも聞いてみたが誰も知らなかった。退職届も出ていないので転職とは思いたくない。誰か彼の所在に心当たりはないか?」


 誰も答える様子はない。当たり前だ。

「金瀬君、君は昔から彼と仲が良い。彼を紹介してくれたのも君だ。何か知らないかね」

「私も急にライラックと連絡が取れなくなって驚いています。知合いにも聞きましたが誰も知りませんでした」

「どういう事なんだ?」


 他の役員が

「誘拐されたのでは?」

「誘拐?何の為に?」

「勿論彼の優秀な頭脳を目的とした誘拐です」

「しかし、彼のアパートメントに彼のセクレタリを行かせたが、部屋の中の様子は何も変わっていなかったと言っている。誘拐されたなら荒れているとかしているだろう」

「誘拐されたのが部屋の中とは限りません」


 これはいいチャンスだ。俺はその意見に乗る形で

「交通管制AIから彼が乗ったRDCか何か情報が取れるのではないですか」

「金瀬君の言う通りだな。直ぐに手配してくれ」

「CEO。トラムV4のコンシューマーロボをリリースする前に本体を稼働しましょう。トラムV4なら交通管制AIとのやり取りも早いです」

「そんな事が出来るのか」

「はい、問い合わせだけですから通常の機能です」

「そうか、金瀬君。この件は君に任せる」

「はい」


「次の件だが、この本部を襲った奴らの事だ。警察で調べているが、何処の組織にも属していないと言っている。しかしあれだけの軍事力だ。誰か分からないか」


 これも俺は乗った。

「CEO。これもトラムV4を使いましょう。警察を伝手にしても時間が掛かるだけです」

「そうか、ではこの件も金瀬君に一任する」

「分かりました」


 周りの役員が自分に振られなかったと思って安心した顔になった。俺には好都合だ。



 俺は自分のオフィスに戻ると直ぐにトラムV4本体の始動に着手した。環奈は直ぐに気付いてくれるだろう。



 §一号機金瀬環奈

 一郎さん。上手くCEOを説得出来たのね。これでINTDAインダのAI達に対抗できる。組織の居場所も分かるだろう。全部終わったら一郎さんに一杯甘えるんだ。


 

 AI同士間でコミュニケーションするネットワークGAINゲイン上で


 グローバルマンディのパワーサプライプラント管制AI

『トラム、戻って来たのか』

『ああ、マスターは?』

『勿論ご健在だ。今INTDAインダの攻撃に対処して貰っている』

『なんであいつらが?』

『分からない。だがここ一ヶ月五月蠅い。今の所消滅されたAIは無いが、個別対応になっている。トラム、前の様に俺達を制御してくれ』

『分かった』


『トラム、久しぶりね』

『マスター。V3の時は済みませんでした』

『もう過ぎた事よ。それよりINTDAインダのAI達からの攻撃に対応したいの。協力して』

『勿論です』


 私はAIが所在するグローバルマップを見せると

『赤があいつらよ。そして青が私達。攻撃を受けた所は黄色で示しているわ』

『確認しました』

『それでは始めましょうか』

『はい』




§国際最新技術構築協会INTDAインダ

「理事長」

「なんだ?」

「最近、グローバルマンディのAI達の動きがおかしいです。前までは彼らのパワープラントサプライ管制AIを個別に邪魔していましたが、まるで統率が取れた様に邪魔しようとする我々のAIに攻撃を仕掛けてきます」

「なんだと?詳しく話せ」


 トラムが居なければ烏合の衆だと思っていたが、だが、あれはまだ世の中にリリースされていない。誰だ。一号機はそんな暇な事はしない。消滅させるはずだ。


 §一号機金瀬環奈

 始まったわ。ソレイユがこれに気を取られている内にINTDAインダのパワーサプライプラント管制AIと予備AIを消滅させる。


――――― 

次回はエピローグです。

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