オマケ「プロポーズは突然2回」編


「ヒカルくん、私と結婚してください!」


 社会人◯年目。桂川さんからプロポーズされた。


 返事はもちろん、YES。僕からプロポーズするつもりだったけど、先を越されちゃったな。


 まだ指輪は用意していなかったから、二人でお店に行って、婚約指輪と結婚指輪を買った。


 その翌週、


「ヒカリちゃん、私と結婚してください!」


「待って待って待って」


 子犬のように首を傾げる桂川さん。

 いやいや……先週、ヒカルと婚約したよね? なんで、そんな不思議そうに首を傾げられるの???


 どうやら、桂川さんは「僕=ヒカリ」だと知らないまま、僕ともヒカリとも結婚するつもりらしい。二股の次は、重婚なんて……さすがにバシッと言っておかないと!


「桂川さん、婚約者いるでしょ?」


「うん」


「そうよね、簡単には認めてくれないわよね。実は先週、見ちゃったの。桂川さんが知らない男の人にプロポーズしているとこ、ろ……」


 「うん」? 今、「うん」って言わなかった?


「え、認めるの? 他に婚約者がいること」


「うん」


「それなのに、私にプロポーズするの?」


「何も問題はないはずよ?」


 桂川さんは穏やかに微笑んだ。


「だって、



  🐙



「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「めでてぇな」「おめでとう」


 気がつくと、僕は教会で桂川さんと結婚式を挙げていた。僕がタキシード、桂川さんは純白のウェディングドレスを着ている。


 家族や学校の友達に祝福され、僕らはバージンロードを歩いた。


「ありがとう。みんな、ありがとう!」


 感動で、胸がいっぱいになる。ところが、最前列の席を見て、固まった。


「おめでとうっぴ! めでたいっぴ!」


 身内に混じって、謎のピンクの塊が椅子の上でぴょんぴょん跳ねている。それは生きたメンダコ……ではなく、ヒカリのピンク髪ツインテのカツラだった。


「う、うわあああーーー!!!」


「ぴーーーッ!!!!!」


 僕はカツラをつかみ、ステンドガラスの窓に向かって投げつけた。



 再び、意識が暗転する。


 次に目を覚ますと、僕はヒカリになっていた。桂川さんとお揃いのピンクのドレスを着て、某ランドのお城の前で記念撮影している。


 ヒカルのときとは違い、現地に招待したのは僕の女装仲間数人だけだったが、


『おめでとう』『おめでとう』『おめでとう』『めでてぇな』『おめでとう』


 結婚式の様子はヒカリの動画チャンネルで全世界に配信され、何千、何万ものリスナーから祝福のコメントが寄せられた。


「みんな、ありがとー!」


 カメラも兼ねているスマホに向かって、手を振る。


 画面には僕と、僕の頭の上に乗ったメンダコ……にしか見えない、ヒカリのピンク髪ツインテのカツラが映っていた。カツラも僕と一緒に手を振り、


「ありがとうっぴー! 幸せになるっぴー!」


「う、うわあああーーー!!!」


 僕は再びカツラをつかみ、明後日の方向へ投げようとする。が、髪の毛が触手のように僕の手に絡みついた。


「離れろ! 離れろってば!」


「僕らはズッ友っぴ。一生、離れないっぴ」



  🐙



「……はッ!」


 今度こそ、完全に正気を取り戻した。桂川さんのひと言が衝撃的すぎて、走馬灯が流れた気がする。


 いや、アレはこれから起きる未来か?

 ヒカルと、ヒカリ。どちらか一方として桂川さんと結婚したとしても、「女装」という秘密がついて回るという啓示……?


「ヒカリちゃん、大丈夫?!」


 僕の顔を心配そうに覗き込む桂川さん。今にも倒れてしまうんじゃないかってくらい、青ざめている。


 ……バカだな、僕は。プロポーズの言葉なんかより先に、彼女に伝えなくちゃならないことがあったじゃないか。


「大丈夫よ。それより、えっと……」


 本日晴天、無風なり。僕は自らの手でピンク髪ツインテのカツラを取り、深々と頭を下げた。


「騙していてごめんなさい。僕はヒカルです」


「!」


「女装が趣味です。最近は、この格好で配信もしています。だけど、桂川さんが大好きなのは本当です。結婚してください!」


「……ハァ」


 桂川さんは額に手を当て、重く息を吐く。背筋が寒くなってきた。

 

「ヒカルくん」


「はい」


 桂川さんはカッと目を見開き、


「あなた……今はヒカリちゃんでしょ? プロポーズするなら、ヒカリちゃんになりきってしなさい。その程度のプロ意識で、本気で女装系配信者のトップになれるとでも思っているの?」


「や、トップになるつもりはな……」


「いいから、もう一回! とびっきり可愛く、情熱的に! 私がキュン死するまで、プロポーズは受け入れないからね!」


「え、えぇぇッ?!」



  🐙



 その後、桂川さんには無事プロポーズをオーケーしてもらい(両鼻から血を吹きながら、何度もうなずいていた)、僕らは結婚式を挙げた。教会と某ランドの二ヶ所で、ヒカルとヒカリとして。


 家まで二軒買うと言い出したときは、さすがに止めたけど。

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