オマケ「子供にもバレた?」編


 僕の名前は、阿田間賀あたまがヒカル。妻と共に子育てに奮闘中の、一介の会社員だ。


 僕は今、人生最大のピンチに直面している!


「わぁ、HIKARI☆ちゃんだー! どうして、きらりのおうちにいるのー?」


「な、なんでかしらね……?」


 僕の名前は、阿田間賀ヒカル。

 またの名を……HIKARI☆。大手芸能事務所ルミナスプロダクションに所属する、大人気配信者だ。


 最近は「HIKARI☆ダンス」がバズり、子供人気が急上昇中! 愛する我が子、きらりちゃんも推している。ママにHIKARI☆と同じツインテールにしてもらうのが、毎朝の日課だ。


 もちろん、僕がHIKARI☆だとは知らない。知られるわけにはいかない。


 そのきらりちゃんが今、僕の目の前に立っている。僕の目の前に、だ。どうしてこんなことに?


  🐙


 HIKARI☆の仕事終わりに、「ヒカル」の急な出張が決まった。

 ヒカルとしての僕の荷物は、阿田間賀家にある。同じマンションの別フロアにはHIKARI☆の配信部屋兼クローゼットがあって、いつもはそこで着替えてから阿田間賀家に帰っていた。


 正直、着替えのためだけに往復するのは面倒くさい。時計を見ると、昼前だった。この時間なら、まだきらりちゃんは幼稚園から帰っていないはず。


 僕は着替えを後回しにし、HIKARI☆の格好のまま、阿田間賀家に荷物を取りに帰った。

 途中、パトカーがマンションの前に止まったときは、「終わった」と思った。幸い、彼らが迎えに来たのは僕ではなかった。


 周りに誰もいないのを確認しつつ、家の中へ入る。急いで荷物をスーツケースに詰めていると、


「あれ? ドア、開いてるー」

「なっ!」


 幼稚園にいるはずのきらりちゃんがひょこっと顔を出した。どうやら、玄関のドアが完全に閉まっていなかったらしい。


 ぱっちりとした大きな瞳と目が合う。不安げなきらりちゃんの顔が、パッと明るくなった。


「わぁ、HIKARI☆ちゃんだー! どうして、きらりのおうちにいるのー?」


「な、なんでかしらね……?」


 ママの姿はいない。きらりちゃん一人だった。


「きらりちゃん、ママは? 一緒じゃないの?」


「ママはね、下でケーサツ屋さんとお話してるよ。きらりが知らないおじさんに"ゆーかい"されそうになったから、ママがおじさんをやっつけて、つーほーしたんだよ!」


 さっきのパトカーのサイレンの音はそれか。さすが、ママ。


「ねーねー! HIKARI☆ちゃん、いっしょに遊ぼ!」


「えぇ……?」


 どうしよう。一人でお留守番させるのは心配だし、ママが帰ってくるまでなら遊んでもいいけど……何かの拍子に僕だってバレたら、マズいなぁ。


  🐙


 その瞬間、神のイタズラか悪魔の罠か、玄関のドアの隙間から一陣の風が吹き抜けた。


 風は僕のカツラをピンポイントで吹き飛ばし、ピンク髪のツインテールがメンダコのように宙を舞った。いつか、どこかで見たのと同じ光景……。


(マズい!!!)


 カツラに向かって、必死に手を伸ばす。しかし、僕がカツラを取り戻すより早く、


「メンダコォォォッ!!!」


 シュバッ! と、きらりちゃんに奪い取られた。幼児とは思えない、俊敏な身のこなしだった。


 きらりちゃんはカツラを抱きしめ、ハァハァと呼吸を荒げる。目が完全にキマっていた。


「き、きらりちゃん? そのカツラ、返してくれる? 私の大切なものなの」


「やっ! HIKARI☆ちゃんのメンダコ、きらりが飼うの!」


「残念だけど、カツラはペットにはできな……」


「飼うったら、飼うのー!」


 きらりちゃんはカツラを離してくれない。この強情さ……ママそっくりだ。さすがは親子。


「ただい……あら? 貴方、どうしてこっちに?」

「説明は後! 今から出張だから、きらりちゃんからカツラを取り返しておいて!」

「よく分からないけど、分かったわ。お土産、お願いねー」


 こんなこともあろうかと、予備で持っていた黒髪ぱっつんのカツラを被り、家を出る。ドアを閉める直前、二人の会話が聞こえた。


「きらりちゃん、いいもの持っているわね」

「うん! HIKARI☆ちゃんのメンダコ! きらりが飼うの!」

「そっかー。水槽がいるわね」


 ……本当に取り返す気あるのかな?

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