オマケ「もしも二人が付き合ったら?」編

 ある日の昼休み。


「ヒカルくん、私と付き合ってください」


「え? あ、は、はい!」



 その日の放課後。


「ヒカリちゃん、私と付き合ってください」


「私も?!」


「どうかした?」


「や、なんでもない……」



  🐙



 桂川さんと付き合うことになった。ヒカルとしても、ヒカリとしても。


 これって二股なんじゃ? でも、どっちも僕だし……いいのか???


 そんなわけで、今日はヒカルとしては初の、桂川さんとデートだ。桂川さんの希望で水族館にやって来た。


「メンダコだ! ヒカルくん、メンダコだよ!」


「う、うん」


 メンダコは小さな耳をピコピコ動かし、気ままに漂う。自然と、あの事件が脳裏によぎった。


(可愛いなぁ。カツラが風で飛ばされたとき、メンダコに似てるなって思ったけど、本物には敵わないや)


 桂川さんも水槽に張りつき、食い入るようにメンダコを見つめていた。


「可愛いなぁ。のウィッグそっくり」


「そうだね。……ん?」


「ん?」


 今、ヒカルくんって呼んだような?


 桂川さんは小首を傾げ、ニコニコと微笑んでいる。


 聞き間違い、だよな?

 ……うん、きっとそうだ。そうに決まってる。桂川さんが僕の正体に気づいているはずがないんだから。


  🐙


 翌日は、ヒカリとして桂川さんとデートに行った。場所は、またしても桂川さんのチョイスで、今SNSで話題のメンダコカフェに決まった。


「ヒカリちゃん、メンダコだよ! 可愛いねぇ」


「そ、そうね」


(昨日も見たんだけどな……)


 ワンドリンクのピーチティーに口をつける。メンダコ柄のマグカップが可愛い。どこで売っているんだろう?


もそういう可愛い雑貨、気になるんだ?」


「ブホッ!」


 おもわず吹いた。今のは不意打ちすぎる!


「い、今ヒカルくんって呼ばなかった?」


「あ、ごめん。同じクラスの男子と間違えちゃった。名前も似てるけど、顔とか背格好とかもそっくりなんだよねー。もしかして、兄弟とか?」


「まさか! ぼ……私、一人っ子だし!」


「だよねー。ヒカルくんも同じこと言ってたもん」


 もしかして、気づいてる? 僕がヒカリで、ヒカリが僕だってこと。気づいているのに何も訊かないって……どゆこと???


 チラッと、桂川さんの表情を見る。彼女は僕と目が合うと、意味ありげに微笑んだ。


「ヒカリちゃん。またメンダコのウィッグ、つけてよ。あんなに似合ってたのにつけないなんて、もったいないよ?」


「そ、そう? じゃあ、次のデートはあのウィッグにしようかしら……」


「わーい、楽しみ!」


  🐙


 帰宅後。大好きな二人と二日続けてデートをした桂川は、二つのメンダコのぬいぐるみを抱きしめ、余韻に浸っていた。


「ヒカルくんもヒカリちゃんもしゅき過ぎるー! もう、二人と結婚したい!」


 した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る