舞台裏での出来事

第30話

咲羅は何か隠している。


いや、言い難い?



とりあえず基本的なところから確認しよう。


「咲羅、あの子どもは俺の子?」

「一応……名前は浅葱」


浅葱……新選組から?


院長先生が新選組好きで「誠」と名付けられたことを咲羅に話したから……いやいや、それは今は関係ない。



一応って、なに?


認知していないから。

認知できるわけがない。


俺は知らなかった。



「どうして教えてくれなかったんだ?」

「……離婚しようと言われたあとだったから」


そんな使い古した言い訳?


「嘘だ」


咲羅はそういうことを気にする女じゃない。


仮に俺が「認知しない」と言っても「あっそう」の一言で終わるか、そう言ったあとに平手打ちをかまして終わる女だ。



「咲羅」


俺の声に咲羅の体が震え、瞳が揺れる。


それは不安の証。

思わず頬に触れてしまい、俺はいま咲羅に触れて許される立場じゃないことを思い出して「ごめん」と離そうとした。


「ありがとう」



咲羅が俺の手を引き留め、そのまま頬を摺り寄せる。


「妊娠が分かったとき、お医者さんに子どもは無事に産まれないかもしれないと言われたの」



「実際に早産で、900グラムの未熟児だった」


医学的には超低出生体重児。

小さ過ぎたと咲羅は説明した。


「体の器官が未熟で、長く新生児用の集中治療室にいたわ。そして、この先障害を持つ可能性がある。私のせい。本当にごめんなさい」


妊婦に相応しくないサプリメントを飲んだ自分のせい。

大事にするべき時期に食事を抜いた自分のせい。


咲羅が俺に謝る。


分からなかったのだから仕方がない。

咲羅のせいじゃない。


色々言葉が浮かんだ。

本当にそう思っている。


だけど、そんな言葉では咲羅が救われない気がして、俺は咲羅を抱きしめるだけにした。


「ごめんね」


声を殺して体を震わせて泣く。

その謝罪が俺へのものか、子どもへのものか。


自分を責める咲羅を抱きしめる腕に力を込める。

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