幽霊と某俳優

第20話

「ごめんね、あれから最近まで正直全く余裕がなかったの」


咲羅はずっと音信不通だったことを詫びた。


海外でカウンセラーのアドバイスを受けながらSNSから離れ、今では心穏やかであることを教えてくれた。



「俺のほうこそ守ってやれなくて……本当にごめん」

「私のほうが……」

「いや、俺のせいだし……」


「「やめようか」」


俺たちは同時に互いの顔を見合わせて笑った。



「それにしても煩いわねえ」

「そうだな。静かに話ができるところに行こう」

「話ができるところ?」


咲羅の場所を問う顔に俺は困った。


俺の家は少し遠い。

しかし、ホテルというのも。

俺は別に咲羅とならば噂になっても全く構わないのだが。



「それならうちにこない?」

「え?」


「何か問題?」

「別れた旦那が別れた妻の家に行くっていうのは……」


元妻ほんにんがいいと言っているんだし……もしかしてお父さんたちのこと気にしてる?」

「まあ……」


「それなら無問題モウマンタイ。お父さんたちも誠に会いたいって言っるよ」


―――君のせいでは決してない。


そう言ってくれた親父さんを思い出す。


「誠はどうしたい?」


咲羅と一緒にいたい。


「俺も親父さんたちに会いたい」

「それじゃあ、おいでよ」


”おいでよ”。

咲羅の家がもう俺と違うのだと痛感させられる。


「うん」


笑顔が見られればいいなんて殊勝なことを考えていたのに、全然だめじゃないか。

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