第13話
「やっぱりここか」
「花見といえばやっぱりここだろう」
目的地は咲羅たちの実家の近くにある公園。
名前を呼ばれて振り返れば、いつの間に用意したのか由貴がビールの缶を一つ投げて寄越した。
「家に車を置いてくれば?」
「これ、ノンアルだから。時間潰しだって言っただろう?」
まだ仕事が残っているらしい。
ご苦労さん。
「それじゃあ、俺は遠慮なく」
「おお、飲め飲め」
仕事が終わった俺は遠慮なくビールの缶を開けて飲む。
どうせあとは眠るだけ。
睡眠導入剤代わりに飲む酒と違って味を感じる。
きっと由貴と飲んでいるからだろう。
目の前にはこの公園の名物といえる桜の並木。
この公園に初めて来たのは、咲羅と恋人になって初めての春だった。
穴場の絶景スポットだと咲羅は言っていた。
確かに人は少なくて穴場だが、いる人はほとんど咲羅の家のご近所さん。
めちゃくちゃ人に揉まれた。
「咲羅ちゃんの彼氏」として俺も揉まれた。
ご近所ネットワークで咲羅のお袋さんにも情報が伝わった。
「初めまして、咲羅の母です」
「初めまして、咲羅さんの彼氏です」
俺とお袋さんが頭を下げ合っている横で「誠、何かおかしくない?」と咲羅は首を傾げていた。
俺もどこかおかしいと思うのだけど、どうおかしいのか未だ分からない。
春の桜。
夏の睡蓮。
秋の紅葉。
冬の山茶花。
この公園は季節で雰囲気を変えた。
この公園を咲羅と仲良く手を繋いで歩いた回数のほうが多い。
でも、辛うじて。
喧嘩して怒って実家に帰った咲羅に謝るために一人で歩いた回数もかなり多い。
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