第14話
人生で一番緊張しながらここを歩いたのは大学最後の冬。
卒業間近で、寒さが緩み始めていた。
この日、俺は咲羅との結婚の許しをもらおうとしていた。
この俺の決意に対して咲羅は「いまさら?」と首を傾げていた。
咲羅どころか咲羅の家族全員が「いまさら?」とか「誠くんは真面目ねえ」「イケメンなのにねえ」とか笑っていた。
確かに、当時はもう俺と咲羅は同棲していた。
よく咲羅の実家にもお邪魔していたから、咲羅の家族どころか親戚とも仲良くしていた。
でも挨拶は必要だろう。
いまさらって……咲羅はともかくご両親もって、どうなんだ?
とにかく、俺はあの日緊張しながらここを歩いていた。
台本を覚えるのとは訳が違う。
自分で考えた文を推敲し、推敲し、推敲し、だんだん言いたいことが分からなくなって、悶々としていたから俺は気づかなかった。
向かいから咲羅の親父さんが歩いてきていた。
お互いに気付かないまま、二人の距離は俺の足で三歩分。
「お嬢さんと結婚させてください、でいこう」
「いいよー、では軽いよねえ」
俺の一人練習と親父さんの一人練習が会話になってしまった。
咲羅の家に行くと、みんなワクワクしていた。
そこで親父さんがことの顛末を話すと、みんなは笑い、咲楽は怒った。
「私とお母さん不在でイベント終了ってどういうこと?」
「突然笑い出してどうした?」
「結婚の許可をもらったときのこと思い出した」
由貴が「ああ」と笑った。
「人生の三大イベントが台無しになったと咲羅が半泣きしていたやつか」
「そう」
ちなみに、咲羅のいう人生三大イベントは、求婚、出産、葬式だった。
それなら、これもイベントか?
イベント名は「幽霊から不幸の手紙」、とか。
その手紙をもらった者には漏れなく不幸が訪れる。
左遷されたりとか。
役を降ろされたりとか。
関わる番組が急遽打ち切りになったりとか。
……不幸の内容に偏りがあるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます