第12話

咲羅との離婚で俺は家族を全て失った。


失望はするけれど、失望で人は死なない。

気力はなくなるけれど生きている。


自分で死ぬのは怖い。

だから生きていくしかない。


生きていくために、仕事をする。

家族がいないからなおさら。



今までのように演技が楽しいとは思えなくなった。


家族だけでなく楽しいという気持ちも奪われた。


奪った奴がいる。

復讐しよう、そう決めた。



目標が決まると、やることができる。

笑顔一つ見せるのだって、意味ができる。


――― 顔でも、何でも、使えるものを使って勝ちなさい。


『勝てば官軍』を座右の銘にしていた咲羅の親父さん。


――― あんた、顔は超好みだけど性格は最悪!


初対面で『顔』しか褒めるところがないと俺にいった咲羅。


……父娘揃って顔ばかりだな。



咲羅が好きなこの顔を使って、なりふり構わず口説けばまた咲羅と家族になれるかもしれない。


そう思ったら、笑えた。

久し振りに笑った。



眠る

食べる

仕事する


眠る

食べる

仕事する


持って生まれた顔面をフル活用して、俺は世間が望む『橘斗真』を演じ続けた。



「俺は、咲羅のことで死ぬほどお前に殴られると思った」

「お前の顔を殴ったら咲羅に恨まれる。咲羅はお前の顔が一番好きだったからな」


また顔か。


そして、好き

……過去形、か。

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