第4話
世間が不倫を許しちゃう悪女。
許すどころか、不倫を応援できちゃうくらいの悪女。
すごくない?
え、私が悪女?
違うわよ。
悪女は『橘斗真の妻』で、私は成田誠の妻。
SNS上は『#真実の愛』と『#橘斗真の妻』の話題で盛り上がる。
まさにシーソーゲーム。
『橘斗真の妻』が悪女になればなるほど『真実の愛』は盛り上がる。
『真実の愛』が持て囃されればされるほど『橘斗真の妻』は貶められる。
『橘斗真の妻』はとても分かりやすい悪女だった。
例えば、「橘斗真を犬の様に侍らせていた『橘斗真の妻』を見た」と誰かが呟くと凄く盛り上がるの。
全く、誰よ、それ。
散財が趣味の浪費家という設定もあったわ。
高級ブランドの袋をいくつもぶら下げて散財している『橘斗真の妻』を見たと呟いた人がいたから。
SNS上で誰かが『橘斗真の妻』の悪行を呟く。
盛り上がる。
『橘斗真の妻』を有名クラブで見た。
クラブで男を漁り、毎回違う男をお持ち帰りしていくのを見た。
『橘斗真の妻』には愛人が三人いるのを知っている。
根拠のない「見た」や「知っている」だらけ。
でも、こうして『橘斗真の妻』という悪女は作られていった。
でも、この頃はまだ笑えていたかな。
誰かがSNS上で『私』の写真を公開したときから事態は笑えなくなった。
これが『橘斗真の妻』だって、中学の卒業アルバムにいた『私』が載った。
この瞬間から『橘斗真の妻』への誹謗中傷が『私』にも向けられるようになった。
『私』の情報は中学時代の写真だけ。
当然容姿に対する誹謗中傷になった。
「身のほど知らなさ過ぎて気の毒になるレベルwww」とか「これで春沢杏奈に勝てると思う神経がすごい」とかね。
でも写真一枚。
私の顔を貶し続けてもそう長くは盛り上がらない。
誰かが『橘斗真の妻』に『私』の情報を加えていった。
例えば『#橘斗真の妻』を○○町のコンビニで見た。
どこそこのクラブで遊んでいる『#橘斗真の妻』は『私』じゃない。
だから笑ってすますことができる。
でも〇〇町のコンビニで見られたのは『私』かもしれない。
否定できない。
中学時代の写真といっても面影はある。
「見た」のは『私』かもしれない。
バイトしているコンビニで『#橘斗真の妻』がカップラーメンを買っているのを見た。
どこのコンビニか分からない。
だけど『私』はコンビニでカップラーメンを買ったことがある。
このスレッドのコメント欄には「料理が下手」とか「妻失格」というコメントがずらっとぶら下がる。
料理が下手なのは『橘斗真の妻』?
それとも私?
妻失格なのは?
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