第7話 絶望
最初にする事は、シスター達を呼ぶ事だった。
呼ぶ方法は至ってシンプル。
僕は堂々と転移する事なく結界に接触して外に出る。
それを二、三回繰り返した後に結界内で一分程度待っていると、ソニックムーブを発生させる程の速度でこちらに何かが向かってくる。
(あれだけの飛行魔法に、騒音対策のために防音結界も同時展開か、流石大魔法使い)
無音の戦闘機として、急いでこちらに向かって来たそれは、完璧な減速を見せてスッと僕の目の前に降り立つ。
「奏多ちゃんがこんな事をするなんて!みんなに何かあった!?」
右手に、シスターが持つにしては荘厳な杖を持ってシスターは現れた。
(さて、頑張って演技をするとしますか)
みんなが誘拐されたことについて淡々と伝えるのは、流石に怪しまれるので8歳に相応しい報告をする。
「ママーー!!」
いつもの呼び方ではなく、あえてより親身な関係であるママ呼びをして、不安から解放されたかのように、シスターに抱きつく。
(完璧!)
どこから見ても子供の反応だ。
「マ、ママ!え、あ、絶対にシスターとしか言わなかった奏多ちゃんが、ママと呼んでくれた。これ聞き間違いじゃないわよね!!ああーー!」
(ヤバい、威力が強すぎた)
一回も甘えたことがないこともあって、威力が強すぎてしまった。
「明里が、みんなが怖い魔法使いの人に連れて行かれちゃった!早く助けないと!」
呼び戻すためにも、とっとと本題を切り出す。
そうすると、シスターはそっと優しく僕を抱きしめる。
「よく頑張りました。もう安心して、みんなは私と守り手さんが救い出すから」
流石、シスター。
素早く思考を切り替えて対応する。
そうして僕は、シスターに状況を伝える。
僕はたまたま手洗いで難を逃れたことやテレポーテーションで連れ去られた事を何となく分かるように伝えたり、シスターと守り手も狙っていたような事など、何とか知る限りの目的を伝える。
「テレポーテーションを使えるなんて、失態だわ。こんな事になるなら空間断絶結界にするべきだった」
(いやいや、その魔法、集団儀式魔法に該当するからね?個人での運用とか考えられてないからね?)
僕から状況を聞いたシスターはブツブツとたまに凄い発言をしながら、思考を巡らせていた。
「私たちの実力は知っているはず、つまりはそれなりの対策はされていると考えたほうがいいわね。そうなると隠密?だけど、その前に相手の拠点を見つけないと」
シスターも相手拠点と奪還についてどうすればいいのか分からず、苦戦している。
(ここで動く!僕の最強道をこの程度で折れると思うなよ)
そうして、僕は行動をはじめる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「明里お姉ちゃんーー怖いよーー」
「私たちどうなるの!?」
「マザーは?ファザーは?どこにいるの?」
「大丈夫・・・・・・大丈夫・・・・・・だから、きっと助けに、来て・・・・・・くれる、はずだから」
反抗されないように徹底的に痛めつけられたことで、上手く喋ることができなかった。
それでも私は残された力を振り絞り、不安に駆られ泣きじゃくる子供たちを一生懸命励ます。
私たちは誘拐された。
一瞬の出来事だった。
急に現れた男たちは何かしらの魔法を使われ一瞬にして制圧された。
そのあと数時間移動させられ、地下にある真っ暗で冷たい牢獄に私たちは入れられた。
「足がいたいよ!!明里お姉ちゃん!!」
「もうちょっと・・・・・・我慢してね、きっと助けは来るから」
男たちは、決して丁寧に扱うことはしなかった。
生きていればいいと乱暴に連れてきたこともあって、ケガをしている子も少なくない。
私は、ケガをしてくる子に、マザーにもしもの時に持たされている小型ナイフを活用して自分の衣服を切り裂いて応急処置をしている。
そのこともあって、私の衣服はボロボロだ。
「もう終わりなんだ……」
「生贄にさせられて死ぬんだ!!」
「嫌だよーー!嫌だよーー!」
「そんなことないから、きっと助けは来るから」
いつもは活発で強気な男子達も弱音を吐き、絶望する。
しかしこれも仕方がないことだった。
ここに来る前、男子たちは誘拐犯たち抵抗した。その結果、抵抗した男子たちは死なない程度にボコボコにさせられ完全に心が折れていた。
私も最年長でまとめ役でもあったため、同じ目にあった。だから、強くは言えなかった
「嫌だよーー!!死にたくないよーーー!!」
「明里お姉ちゃん、私、死にたくないよ!!」
「死なない・・・・・・死なないから・・・・・・きっと助けに来てくれるから」
「うるせえぞ餓鬼ども!!黙って待つこともできねえのか!!」
私たちを見張っている監視の人が鬼の形相でこちらを怒鳴りつけてくる。
(ダメ、そんなことをしたら余計に)
「うわああああん、嫌だよ、私死にたくない」
「嫌だ嫌だ嫌だ」
「明里お姉ちゃん、私死にたくないよ」
子供たちは先ほどよりも酷く泣きわめく。
「あーー、よりうるさくなった。一人二人殺さないと分からないのか?」
「え……」
監視の発言に、緊張が走る。
(まずいまずい、このままじゃ誰か死んじゃう!)
監視の人は、剣をもってこちらに来る。
「さすがに殺すのはまずいぞ、それで儀式が失敗したら俺たちが贄にされるぞ」
「あーー、そうだったな」
(何とかなった)
もう一人の監視の人が止めてくれたおかげで、何とか事なき得た。
「だけど、あのうるさいの何とかならないのか?」
「まったく、君は拷問官なんだろ。なら、暴力以外の黙らせ方を覚えたほうがいい」
そういうと、先ほど止めてくれた監視の人が近づいてくる。
「そこの君、これから何が行われるが知ってみないかい?きっと楽になれるよ」
「ほ、ほんと?」
「ダメ!ウソ決まってる!」
絶対にいいことじゃない。
(最年長の私が守らなきゃ)
私は必至に否定する。
「おやおや、嘘なんてひどいな。私は本当のことしか言わないんだよ」
監視の人はわざとらしい口調で言い返してくる。
手が震える。
怖い、だけど私が、私が頑張らないと。
「信じない、聞いちゃだめだよ」
「ふむ、見たところ君がまとめ役かな。背水の陣というべきか、ここまで痛めつけられたのに叫ぶ力があるとは強いね。」
監視の人はそういうと私の前に来た。
「そんな君にいいことを教えてあげる。人はみんな弱いんだよ」
「ひぃ……」
私だけしか表情を見れないことを確認した監視の人は、とてもおぞましい表情をしていってくる。
震えが止まらない。
「誰も知りたくないのかい?今の不安の気持ちから解放されるよ」
「わ、私、知りたい」
「わ、わたしも楽になりたい」
「わ、私も」「ぼ、僕も」「俺も、俺も知りたい」
一人が言い始めると、みんなに釣られるように言い始める。
「だ、だめ……」
私は必死に抵抗するが、止めることはできなかった。
「よしよし、そうだよね。みんな今の不安の気持ちから解放されたいよね」
監視の人はニヤニヤしながら話し始める。
「いいかい、君たちは人数が多いからね、今回は茹で窯方式を使うんだ。大丈夫、痛くはないよ。最初は水につかっているのと同じだよ。そこから少しずつ暖かくなってくる。きっと途中は気持ちいぐらいだ。」
「ほ、ほんと」
「うん、本当だよ!そのあとは、ほんの少しだけ熱くなるかもだけど、死ぬときは意識を失っているから苦しいのは一瞬だ」
「え……」
監視の人から放たれる死の言葉に空気は凍る。
「し、死んじゃうの……」
「当然さ。だけど、ここでは一瞬で死ねることはかなりの幸運だよ?普通は死にたくても死ねないのだから」
監視の人がそういうと、ポケットから丸い機械を取り出すと映像を映す。
「いやーーー!!!、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいたいちあちたいちあちあたおといたいたjとjtじゃおんどんどないおいいたちあたおいおおたいおいtjdじゃお」
そこに移された映像は、私たちと同じ年の子がハンマーでひたすら殴られ、この世のモノとは思えない壮絶な悲鳴を上げる動画だった。
「これは、超回復を無理やり発生させてより強い体を作る実験だね。回復魔法を常時使用しているから、一撃で殺さない限りこんな感じで元通りさ。これに比べると、一瞬で死ねるほうがマシだろ?」
「……」
騒がしかった子供たちは沈黙する。
皆、絶望したのだ。自分には死しか訪れないと。
「あは、あははははは!!何度見ても絶望顔は素晴らしいね。君のご注文通り、みんなを静かにしたよ」
「お前も中々に趣味が悪いな」
「否定はしないけど、優しいほうだと思うよ。しっかりと不安からは解放したから」
「絶望に変えただけだろ」
二人は愉快そうに話す。
「明里お姉ちゃん、私、死ぬしかないの……」
私に抱き着いていた子は絶望した表情で聞いてくる。
「大丈夫・・・・・・、きっときっと助けに来てくれるはず」
「君は諦めが悪いね」
気が付けば、先ほどの監視員の人が目の前にいた。
「諦めの悪い君に、いいことを教えよう。君たちが言うファザーとマザーを嵌めるために君たちを攫ったんだよ?」
「え……」
「私たちは、最初から君たちの希望を潰すために動いている。そして、それはうまくいっている。否定はさせないよ。だって計画通り君たちを簡単に攫うことができている」
言っていることを理解したくない。だって、それはつまりそういうことなのだから。
「さらにいいことを教えてあげる。君たちの希望を殺すのは、君たちを生贄にして召喚させたモンスターだ!つまり、自分たちの手で希望を殺すんだよ!!」
「あ……え……」
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ。そんなの信じたくはない。
「ふふ、その表情もいいね。君、頭いいからどれだけ否定しても、これが現実だと分かってしまうタイプだよね。私の好きなタイプだ。最も苦しむからね」
そういいながら、監視の人は元の位置に戻っていく。
(嫌だよ……嫌だよ……助けて奏多)
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