第4話 性能テスト

 深夜、僕は目的の拠点に辿り着いた。


 拠点は廃村を魔法で魔改造した簡易拠点だ。


 現在戦争している相手は、この拠点のように簡易拠点を一瞬で作り上げることが非常にうまい。


 さらに言うなら作成コストも低いため、ヤバくなったら即廃棄できるのも強い。


 それなり人数を始末しても、拠点構築の練度があまり下がらないところ見るに、組織としても育成が相当うまいのだろう。


 その点だけで評価するなら一流である。


 この高い拠点構築能力を活用してのゲリラ戦が強く、中々この戦争が終わらない原因の一つだ。


「見張りも拠点の中にいる人物も警戒しているのか、今から何かするところだったかな?」


 深夜に来ていることもあって、普段なら見張り以外は静かに寝ていることなどが多いが、今回は違った。


 今から何かをするかのように活発に動いていた。


(何をするかは知らないけど丁度いい、悪事を未然に防止できて性能テストもできる。一石二鳥だ。)


 今回は超合金ボディスーツの性能テストがメインだ。不意打ちなどをしたら性能が確かめられない。


 よって正面から皆殺しだ。


 僕は超合金ボディスーツで作成した細長の剣を右手に、堂々と入り口に近づいていく。


 そして、20メートルほどのところで2人の門番は僕の存在に気がつく。


「おい、そこのチビ止まれ」


「なんだあのチビは、ガキか?」


 まだ、8歳なのでチビチビ言われるのは仕方がなかった。


「剣を持っているがどうする?」


「どうするも何も、見られた以上殺すしかねえだろ」


 門番の片方は、魔力で身体能力を強化すると勢いよく、こちらに向かってきた。


「こんなチビ、いっしゅ」


 向かってこようとした門番の言葉は途中で中断され、男の首は地面に落ちた。


「え・・・・・・」


 隣の門番は、一瞬の出来事に状況を理解するのがワンテンポ遅れる。


 そのワンテンポで、もう1人の門番と同じ姿にできたが、彼にはやってもらいたいことがあるので待つ。


 そうして、もう1人の門番は、この状況を生み出した僕に剣を向けて問いただしてきた。


「お、お前は何者だ!」


「中のものに伝えよ。生きたければ抗えと」


「何を言って、」


 門番が否定の言葉を投げかけようとした瞬間、自分の左腕が回転して地面に落ちていくところ見る。


「うわぁぁーーー!!」


 遅れてきた激痛に叫び、左腕を切り飛ばされ門番は恐怖で顔を歪ませ、そして助けてくれーと叫びながら拠点の中に入っていく。


 僕はその後をゆっくりと追っていく。


(やっぱり暴力、暴力こそ全てを解決する)


 雑魚には言葉よりも暴力で訴える方が早い。


 今までの経験も含めて、ああいった危機察知能力が低い奴らは、痛めつけないとすぐには動かないのだ。


 腕を切らなかった場合、今までの経験的に問答がしばらく続き、結局襲い掛かってくるパターンになっていたはず。


 それは最強として馬鹿らしい。


 しかし、一度痛めつければ効果は抜群だ。必死なって僕の存在を伝えてくれるはずだ。


(さてさてさーて、どんな歓迎をしてくれるかな)


 門番が開けたままの扉に悠々自適に入っていく。


 超合金ボディスーツの性能テストの為にも派手な出迎いを期待する。


「打てーーー!」


 門に入ると同時に掛け声と共に、複数の方面から発砲される。


「ちゃんと狙えよ」


 撃たれた瞬間、僕は蔑むように言い放つ。


 放たれた数十発の弾丸のうち、僕に命中するのはたった2発だけだった。


 ゆっくりと歩いてくる人物に対してこの程度の命中率に嘆きを我慢できなかった。


 僕は、飛んできた弾丸の片方は片手で握るように防ぎ、もう片方はわざと受ける。


「ふむ、やはり普通の弾丸の程度は無傷だな」


 超合金ボディスーツに弾丸が直撃したが、貫通するどころか傷すらつけることは無かった。


(精度低いし、これ以上の結果は得られなそうだな)


「ひ、怯むな撃て!」


「もう興味ないから」


 サブリーダーぽいやつが、再び命令をしていたので、超合金ボディスーツの特徴の一つ、伸縮を活用して数十メートル離れている敵を切り裂く。


「ふむ、精度も速度もバッチリだ」


 この伸ばして切るは、意外と技術と性能が要求される。


 伸ばす速度や縮む速度はもちろんのこと、相手の当たるタイミングに合わせて、しなやかに硬化させる技術も必要だ。


 失敗するとムチが当たったと同じ結果になる。


 本気でやれば、それでも十分殺傷できるが、今は性能テストの為、身体強化はなしの上でさらに手加減もしている為、痛い程度で終わってしまう。


 難易度の高い技だが、出来るようになると先程の門番のように、離れた敵に有効な攻撃ができる。


「もう少し練習するかなって、逃げてるやん」


 サブリーダーがやられたからか、僕を銃撃した奴らは一斉に逃げ始めた。


 今回は誰一人逃すつもりはない為、拠点を防音機能付き結界で覆っているので逃げられる心配はない。


「いちいち追うのもめんどいなぁ。あの機能を使うか」


 僕は超合金ボディスーツの一部を切り離す。


 切り離された部分は、50センチぐらいの刃となって僕の周囲に6つほど浮かぶ。


「やれ」


 僕の掛け声と共に6本の刃は、物凄い速度で散らばり悲鳴がこだまする。


 ファンネル機能、まあ正確には半自動機能だ。


 魔力操作出来る超合金の特性と、ラジコンやドローンなどの仕組みをうまく組み合わせ、さらに高度な魔法を活用することで、あんな感じで半自動で色々なことが出来る。


「こちらも問題なし。いや、実際にやると最高だな」


 動くことなく始末する。


 相手にする価値もないやつと戦わないことも含めて、最強だと思わせて最高にいい。


「それで、いつまで隠れてるつもり?お前、ここのボスだろ?」


 不意打ち狙いだろうか、ずっと隠れているボスらしき人物に話しかける。


 どうやって僕の不意をつくつもりなのか、少し待っていたが、手下が全滅しても何もしてこなかったので、ガッカリだ。


(反応がない、ファンネルで殺すか。このスーツでの近接戦が問題ないのか試したかったけど、訓練でも確認できる)


 小物に構う時間もない為、ファンネルで殺そうとした時だった、こちらが油断したと思ったのか急に出てくる。


「死ねー!」


 リーダーらしきやつは、真っ直ぐと最短最速でこちらに詰めてくる。


「なるほど、最低限足掻くことにしたか」


 少しでも高い勝率に賭けて、こちらに向かってきた度胸に免じて、ファンネルで殺さず素手で相手にする。


「一点特化はいいが、それをするには遅すぎる。軌道が丸分かりだぞ」


 来る場所が分かれば、対処は容易。


 半歩、体を斜め後ろにずらし、こちらに振るわれる剣の側面を軽く撫でてやるだけで、剣は当たらない。


「クソ」


 回避された男は、魔力強化による身体能力で強引に止まり、次の攻撃をしようとする。


「遅い」


 男の攻撃が来るよりも早く、僕の蹴りが炸裂して、男は吹き飛ばされる。


「やはり雑だな」


 この世界の近接戦は割りかし雑なことが多い。


 特に防御、立ち回り、足捌き、間合い管理は一流の奴以外ゴミ同然である。


 理由は簡単で、身体強化によって得られた超人的な力で、ある程度ゴリ押せてしまうからだ。


 こいつもそう。


 さっきの一直線の切り込みなど、攻撃に関する技に関してはある程度技術があるようだが、それ以外に関しては先程のように身体強化が誤魔化そうとする。


 派手を強いと思い、大振りの攻撃をするやつが多く、ゴリ押しがそれなりに通用してしまうことも更なる悪循環を招いている。


 普通に考えて、強引に止まろうとすれば、バランスは崩れて、次の動きがワンテンポ以上遅れる。


 それは致命的な遅れを発生させ、身体強化なしの僕の攻撃が決まる結果につながる。


 僕は蹴り飛ばしたボス君がゆっくりと待ち受ける。


 正直言って僕の戦闘技術は、この世界に比べて数段レベルで洗練されている。


 原因は魔力よって楽が出来てしまうからだ。


 先程のゴリ押しもいい例だが、特に大きな差を生み出しているのは、医学や物理学を始めとした知識である。


 分かりやすいものとしては、回復魔法が挙げられる。魔力を多めに消費すれば大抵の病気は治せる。


 そのため、人体に関する知識の探究は余りなされていない。


 これは大きな差だ。


 いくら魔力で誤魔化せると言っても、基礎は重要だ。


 より強力な身体を鍛える為の効果的なトレーニング方法や栄養管理、体の可動範囲など仕組みを理解すること、より合理性を突き詰めた戦闘スタイルの追求と色々と差を生み出すことができる。


 故に、僕の戦闘技術はこの世界より数段洗練されている。だが、過信してはいけない。


 この世界には不可能を可能にする魔法などがある。


 常識に囚われるのは、命取りだ。


 僕は魔法を活用して骨などを柔らかくする事で首を20回転させても生きていた兵士を見たことがある。


 その為、戦闘技術だけではなく、魔力と魔法の分野についても極めなければ最強にはなれない。


「舐めるなよー!!」


 やっと起き上がったボス君は、馬鹿の一つ覚えのようにまた、魔力に任せて強引に詰めてくる。


 しかも、力強く僕のことを叩き斬ろうとしたのか、余りにも無配慮に、僕の間合い深くまで踏み込み剣を大きく振り上げる。


 そして振り下ろすと同時に僕は一歩前に踏み込む。


 その結果、僕は彼の内側に入り込み、彼の剣の攻撃範囲から外れる。


 このボス君はどうやら忘れているらしい。


 攻撃範囲ではない所は内側にもあることを。


 剣などは外側だけ気にしていればいいわけではない。内側もしっかり気にする必要がある。


 大剣とかでイメージすれば分かりやすいと思うが、相手の懐に入れば剣は振るえないし、当てれない。


 相手の間合いについて警戒するのも重要だが、もっと重要なのは自分の懐に入られないようにすることだ。


 入られたら、大抵何も出来ない。


 自分の体が邪魔だし、武器を下手に振えば自分に当たる。


 最も簡単な、正眼の構えで刀を振り下ろす時ですら、左足を後ろにする。


 振り下ろした刀が自分の足を切る可能性があるから。


 故に、武器を持って戦う時に最も気を付けなければいけないことは懐に入られること。特に今の僕のような小さな相手と戦うなら尚更。


(ボス君には失望だよ。感情的に動き過ぎて、こんなミスをするなんて)


 ボス君もその事実に気がつき、動揺して一瞬動き鈍る。


 その一瞬の隙を見逃してことなく、剣の握る手首目掛けて、掌底を打ち込む。


 想定していなかった衝撃と、動揺によって力が抜けていたことあって、簡単に剣は手を離れ宙を舞う。


 手首も損傷し、痛みと衝撃によってボス君は体勢は後ろの方に倒れる。


 こうなることまで読めていた僕は、一切の無駄のない動きでボス君の首根っこを掴むと地面に叩きつける。


 体勢が後ろに崩れていたこともあって、大した力がなくても簡単に叩きつけることができた。


「降伏する!全て話すから命だけは——」


 ボス君の言葉を待つことなく、首根っこを掴んでいた手のひらから剣が生え、首を貫き死亡する。


「これで全滅と、やはり何処からでも武器を生やせるの強いな」


 圧倒的な力で敵を蹂躙した超合金ボディスーツの結果に僕は満足するのであった。

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