第3話 超合成液体金属ボディスーツ
夜、孤児院のみんなが寝静まる時、僕は静かに目を醒める。
(さて、抜け出すか)
楽しい楽しい実践が僕を待っている。
しかしながら、抜け出すためには幾つかの障害がある。
第一の障害は明里だ。
感覚から見る必要もなく分かるのだが、僕の右腕はがっしりと明里に握られていた。
怖いのか、安心したいのか分からないが、明里は必ず僕の手を握って寝ている。
「奏多・・・・・・一緒に遊ぼう・・・・・・」
僕と一緒に遊ぶ夢でも見ているのか、可愛らしい寝言を言う明里だが、この手を解く難易度は全く可愛くないほど高い。
何が問題かと言うと、手を解く行為に明里は非常に敏感なのだ。
かなりの高みに至った現在の僕でも、全神経を集中して10分以上掛けて慎重に優しく解かなければ、必ず起きてしまう。
一体どうしてここまで敏感なのか分からないが、あまりの難易度の高さに、手指の精密動作訓練になるレベルだ。
そうして、僕は全神経を集中して10分掛けて、明里の手を解く。
(今日は成功したか)
かなりの回数こなしているが成功率100パーセントは達成できていない。
そうして、第一の障害を突破した僕は外に向かう。
(本来なら、第二の障害としてシスターと守り手がいるけど、今日は何かしらの用事で明日の朝早くまでいないから、楽でいいね)
シスターと守り手、他の子供達からは、マザーとファザーと言われる人。
なぜ第二の障害か、それはシスターと守り手は、僕視点評価、元超一流の強い人物だからだ。
現在は2人で、僕含めて25人いる孤児院を運営しているが、その前は軍の相当上の人物であってもおかしくないレベルだ。
まあ、僕はどんな環境でも成り上がれることを証明する必要があるので、これ以上のことは知らないし、特別何かをしてもらうことも避けている。
因みに2人の見た目はメチャクチャ若い。
(見た目は20代後半なのに、実年齢は60超えてるのは何かのバグだよな)
魔力などの影響か分からないが、シスターと守り手の見た目はかなり若い。
だからこそ、孤児院の子からはシスターやバァバではなく、マザーやファザーと言われている。
そんな人物たちの監視を潜り抜かなければならないため、第二の障害になっているが本日はいないため余裕の突破。
そして、最後の障害は孤児院を外からの脅威から守るために貼られている結界である。
この結界は、シスターが展開したもので超高性能結界である。
指定した人物のみ出入りが可能なことは勿論のこと、術者に出入りを含めたあらゆる情報が送られるようになっている。
そのため、破壊するために攻撃するのは勿論のこと、僕がこの結果の出入りした情報もシスターに届けられる。
つまりは、この結界に手を出した瞬間シスターにバレると言うことだ。
勿論、バレれば鬼のような速度で帰って来るので、絶対にバレてはいけない。
(うわ、今回は三重かよ)
普段は二重なのだが、孤児院を空けると言うことで結界がもう一枚増えている。
この結界を正面から破壊しようとするなら、核兵器の数倍の威力は必要なため、この孤児院の守りを正面から突破は不可能に近い。
しかしながら、この結界にも欠点がある。
僕は結界の前に来ると、三重結界の外側の位置をよく観察する。
そのあと、右手の人差し指と中指をくっつけて、1を手で表現するかのように手印を片手で組むと詠唱を始める。
「天理の神よ、我は進む、目的の地まで
空間の神よ、我は超える、全ての障害を超え
我は辿り着く、全ての障害を無にし、望む場所へ
テレポーテーション」
詠唱を唱え終わると同時に、一瞬にして僕は三重の結界の外に移動する。
空間転移、テレポーテーション、それがこの結界の弱点だ。
テレポーテーションは、目標地点の空間に直接移動する魔法で、その道中にある障害は全て無視することができる。
その特性上、非常に硬い結界でも無視して突破できると言うわけだ。
こう考えると重大な欠陥のように思えるが、大前提としてテレポーテーションを使える人は世界に数人レベルであり、魔力消費は滅茶苦茶悪く、難易度も最難関であるなど、使用できるものが少ないため、致命的な欠陥になっていない。
ちなみにテレポーテーションすら無効できる結界、空間断絶結界というものがある。
これは壁で守るというよりかは、別次元して根本的に行けないようにしようという、文字通り次元が違う結界だ。
そのため、空間断絶結界は最強の結界だが、利便性などはゴミなのであまり使われない。
どれぐらいの感じかと言うと、前世における某国が運用していた空飛ぶ国家予算と言われるステルス爆撃機と同じ感じだ。
分かる人なら、使われない理由に納得したはずだ。ちなみに、孤児院に貼ってある結界はその次に強いと言われる結界だ。
うんーー馬鹿だね。
とにかく、テレポーテーションはそう便利なものではない。
デフォルトモードの僕でも、長文詠唱に手印と、様々な工夫をした上で10メートルを一回移動するのが限界だ。
(デフォルトモードの能力制限ウザすぎ、自動生成マジ許せないわ)
僕の変身能力は、デブの状態、デフォルトモードには能力制限がある。
それは、本来の力の0.1%程度しか引き出せないと言うものだ。
つまるところ、デフォルトモードの僕は雑魚である。
さらに、この変身能力は成長する。
当然、悪い方に。
何が悪くなるといったら、能力制限の倍率だ。
倍率が固定なら、0.1%でも問題ないほどに強くなればいい話。
しかしながら、この8年間成長してはっきりと分かった。
この変身能力は、一般人より下のレベル以上の力を身につけないように制限する力が増している。
つまるところ、成長が止まらない限りは、僕は一般人以下のレベルになるという事だ。
無駄に高性能である。
このような数々の厳しい制限があるとなると、変身した際に何か特別な力にあるのではないかと思うかもだが、自動生成は期待を裏切らない。
カッコよくなる以外何もないのだ。
ただ、制限されるだけなのだ。
なんなら、変身中は魔力消費が発生するため、よりタチが悪い、超害悪能力である。
この変身能力のせいで、どれだけ魔力関係に苦労させられる羽目になったか分からない。
そうして、やっとのことで外に出た僕はポケットからビー玉ぐらいの白銀の玉を取り出す。
これが今回の主役である超合成液体金属ボディスーツである。
この超合成液体金属ボディスーツ、名前が長いので略称で超合金ボディスーツは2つの目的を達成するために作成をした。
一つは、僕が考える最強キャラになるため。
もう一つは、あの超害悪能力である変身能力の欠点を解決するためだ。
変身能力君、あれだけのデメリットでは足らなかったらしい。
変身能力の何が問題かと言うと、服などのサイズが合わないのである。
ふくよかな体型から、細マッチョ体型に変わるのだから当然と言えば当然であり、有能な変身能力君なら、自動調整してくれるかもだが、うちのは無能もいいところなので当然ない。
そのため、変身するたびにどこかで着替えてこないといけない。
変身したら一回着替えてくる必要がある最強、うん笑える。
この致命的な問題を解決するために、こちらで調整可能なボディスーツが必要だった。
その上ですぐに思いついたのは、よく漫画とかで出てくる魔力を込めることで形が変わる系の物質だった。
魔法がある世界ということで、魔物も存在していたり、前世では存在しない鉱石などがあったため、探したらすぐに見つけることができた。
しかしながら、問題があった。
見つけた液体金属は強度こそあれど、それ以外は全然ダメ。
魔力変換効率という、ガソリンをエネルギー変える効率みたいなのがあるのだが、それが10パーセント以下、つまり込めた魔力の9割は無駄になる。
他にも重かったり、伸縮能力が低かったり、変形速度遅かったり、あと肌触りが硬くて最悪など、問題だらけだった。
しかし、ボディスーツの開発は最強おいて避けては通らない道である。
度重なる試行錯誤のもと、僕は液体金属の強度の高さと、錬金術に希望を見出す。
錬金術についてしっかりと説明すると長くなるので、ざっくりした説明をすると魔法の一種である。
イメージは、みんなが想像するものと大体同じだ。重要な点としては素材の特性を他の素材に付与することができるという点だ。
ただ、この付与には付与される側の高い耐久性と変化に適応できる柔軟性が必要だ。
その条件に液体金属はあっていた。
そうして、僕は魔力変換効率が良い素材など、取り入れたい特性を持つ素材を集めては、錬金術を活用して液体金属に付与していく。
しかし、これは中々うまくいかなかった。
それは当然で、簡単に出来ならこれが流行っているはずだし、最強の武器を作れるわけだから、争いのレベルは何段階も上のレベルになっていたはずだ。
だが、現実はそうなっていない。
みんな、普通の武器で戦うし、錬金術の特性の付与はあまり活用されてはいない。液体金属だって価値は高くなかった。
理由は簡単で、メチャクチャ難しく失敗したら、素材全ロスの上に、爆発するので実力者でないと、至近距離の爆発を喰らい即死する。
こんなもの流行るわけがない。
いくら条件とし液体金属が合っていても限度があったのだ。
付与の作業を言葉で表すとしたら、失敗の許されない手術と同じように長時間の集中力、機械のように正確で繊細な動作が求められるだけではなく、頭の中で5万ピースのパズルを組み立てると同程度、頭を使う必要があった。
これには流石の僕でも、長い年月が必要になった。集中力と精密な動作は他にも要求されるため、メキメキと実力を上げていけたが、5万ピースパズルの思考力については随分苦戦した。
八つの訓練を同時にするなど、日々の生活を大々的に見直し、思考訓練を追加して、疲労した脳を回復魔法で強引に回復させて、24時間鍛えることを四年続けた。
その甲斐もあって、魔力操作の精度や情報処理の能力は他の追随を許さないレベルまで上がり、念願の超合金ボディスーツも作成することができた。
これを作成するのに、軽く千を超える回数失敗し、その度に爆発を喰らい素材を集め直すなど、かなり苦労した。
そのため、出来上がった時は大声で喜びの雄叫びをあげるほど嬉しかったし、今からこれを運用することに胸がときめいて仕方がない。
「我が本当の姿を表せ」
変身するのに詠唱する必要もなく、こんな厨二くさい言葉である必要もないのだが、ついつい言ってしまうほどには、僕は興奮していた。
変身が始まると同時に、僕は魔力を操作して超合金ボディスーツを着用する。
「おーー!おーーー!うおぉぉぉぉぉぉぉ!キターーーーーーーーーー!」
変身した僕は、勝利の雄叫びを上げた。
「これだよ!これ!
見た目良し!扱いやすさもよし!
動きを阻害せず、鎧のように音も出ない!
肌触りも完璧!
何より見た目!
最高に最強だ!」
軍服をベースに、純白のマントに顔を隠すようにフードを被る自分の姿は、何度も妄想の中で夢見た最強の実力者像にかなり近かった。
特にフードによって顔が隠れているのがいい味を出している。
顔が分からないことで、正体が分からないミステリアスなイメージを付与でき、それは最強の姿に深みを与える。
それによって、確かにそこに存在しているのに、存在していないように思わされるようになる。
そのズレが僕を別次元の人物であると思わせ、想像を超える最強の存在に昇華させる!。
「素晴らしい、これでまた一歩最強への道歩むことができた」
発音もメチャクチャ頑張って練習したため、深く濃い実力者を彷彿させるものになっている。
まだまだ、改善点は全体的にあるが、今はこれで大満足だ。
「我が新たな力を試すとしよう」
そうして僕はウキウキで敵の殲滅しにいくのであった。
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