第2話 戦争孤児

「おまえ、太っているから食べ物いらないだろ!」


 僕より二つ下のボロボロの服をきた6歳の男の子が、僕のご飯を取っていく。


「年上は我慢するものなんでしょ!マザーが言ってた。だからもらうね」


 同じく6歳の女の子が、僕からご飯を強奪する。


 それに続いて次々と小さい子供たちが僕からご飯を略奪した結果、僕に残ったのはパン一口分たった。


 僕は、残ったパン一口分を大切に食べながら、転生してから8年のことを振り返る。


 まず、僕が転生した世界は、前世の現代日本に魔法と剣が追加された感じの場所だった。


 文明レベルも前世とさほど変わらないが、治安の悪さなどは、前世より酷かった。


 酷い理由は、一個人が力を持てるようになったのが原因だ。


 銃が規制されている日本では、無差別殺人が起きたとしても凶器が包丁とかなので、精々数人被害に遭うのが限度だが、銃が持てる国では数十人が犠牲になると同じ原理だ。


 魔法や剣によって、個人が国と対決できる程度の力を持つようになり、被害規模が格段に上がる。


 現在、僕が巻き込まれている戦争がいい例だ。


 色々と情報を調べた結果、今の戦争はどこかのマッドサイエンティストのやつが人体実験などをしてキメラを作り出そうとしたことがバレた結果、10年にも及ぶ戦争が起きている。


 そんなところに転生した僕だが、生まれて早々に僕は死にかけた。


 戦争あるある、無理矢理出産させられた系である僕は、生まれた直後に捨てられた。


 流石の僕も、訓練時間なしでは死んでしまう為、メチャクチャ焦った。


 捨てられてから1日が経過して、死を覚悟したが孤児院のシスター、先程の女の子からマザーと言われている人が、僕を拾ってくれたお陰で死ぬことはなかった。


 そうして、今は戦争孤児として孤児院で暮らしている。


(劣悪な環境とか、逆境がいいとか言ったけど、ここまでするかよ普通。やはりゴミだな自動生成)


 因みに、子供達、同じ孤児院に暮らす子に食料を強奪されたのも、自動生成が元凶だ。


 確かに僕は、最強にはギャップが必要だとして、変身能力を望んだよ。


 しかし、どんだけ頑張っても見た目がブサイクデブから変わらない制約がつくのは話が違うだろう。


 容姿が厳しいことに関しては、変身すればいいし、最強の定義の一つ、見た目で判断しないもあるので気にしていない。


 ただ、見た目が変わらないから、1週間ご飯を食べていなくても、みんなから食べているでしょみたいな感じに思われ、ご飯を強奪されるのはやばかった。


 最初の方は、そのせいで餓死寸前までいった。


 他にも変身するには、割りかし魔力が必要になるとか、害悪能力になっている。


 許すマジ自動生成。そしてド三流女神。


 まあ、そんな感じで色々と苦難はあったが僕は最強であり、有言実行は当たり前。


 この逆境を乗り越えて最強の道を歩んでいる。


 確かに戦場に近い孤児院での世界は色々厳しいものがあるが、その代わりにガチの戦闘について学べる機会は沢山あった。


 訓練の側で、戦いを観察して僕は、最強の戦闘スタイルの追求をした。


 この世界において、もっとも重要になってくる要素は、魔法と能力だ。


 この二つは理不尽の塊みたいな存在で、油断すれば余裕で一撃必殺が飛んでくる。


 そんな魔法と能力なのだが、絶対的な存在ではなかった。


 理由は魔力が元になっているからだ。


 そのため、目には目を歯には歯をが有効になる。


 簡単に言えば、魔力が強い方が勝つ。


 しかし、これも単純な話ではない。


 なぜなら、これにも強度とかが関係してくるからだ。


 理不尽な一撃必殺のようなものほど脆く、単純な魔法ほど硬い。


 そのため、魔法同士がぶつかり合うと、硬い方の魔法が優先して発動され、脆い側は無効化される。


 だから、魔力の操作技術とかも重要だ。


 そのように戦場から学んだことを自分の知恵にして、訓練に反映させる。


 そうして、僕の最強への道は更なる進化を遂げつつある。


 あと食料問題の方も解決している。


 最初の方は、力がなかったこともありヤバかったが、鍛え力をつけたことで、今では肉体改造の為の食事ができる程度の量を確保できている。


 故に、食事を大人しく強奪されたり、僕だとバレない程度には色々とこの孤児院の支援もしている。


 最強はミステリアスなところも必要なため、バレるわけにはいかないんだ。


「また、みんなにご飯をあげたの?奏多かなたがあまり食べてないの私、分かってるんだからね。」


 僕に注意をしながら隣に座ったのは、僕と同じ境遇の明里あかりだ。


「ほら、私のあげるから。奏多かなたがいなくなると私1人で、あの子たちの面倒を見ないと行けなくなるから、受け取らないはダメだよ!」


 そうして、自分の食事の半分を僕に渡してくる。


 明里と僕は、同い年で孤児院においては最年長である。


 うちの孤児院は決して余裕があるわけではないため、子供達の面倒などは最年長である僕たちがする必要があった。


 明里は聡明かつ才能もある。


 このような過酷な環境でも適応して、しっかりと子供達をまとめ面倒を見れているが、今日のご飯すら満足に確保できない環境もあり、1人では厳しいところがある。


 だからこそ、僕の存在は必要であり、見た目だけでは判断せず、このように食べ物を分け与えてくる。


「分かった、食べるからそう睨みつけないでくれ」


 いくら断っても食べるまで諦めないことを知っているので、僕は大人しく半分貰い受ける。


(後で栄養補給の魔法だな)


 成長盛りかつ子供達の面倒などで多忙な明里にとって、この行為は当然だがよくない。


 最初はあらゆる手段を使って断らせようとしたが、明里はその全てを跳ね除けたため、こっそりと栄養補給ができる魔法を作るしかなかった。


 もちろん簡単に魔法なんて作れない。


 才能、素質、知識、技術、経験とあらゆる要素が高いレベルで必要になってくる。


 才能や素質に関しては、僕が要求したもう一つの能力、最低限ゼロ挑戦権チャレンジで、知識と経験は、前世の知識と経験で、技術は回復魔法ゴリ押しの猛特訓でカバーした。


 そうして、不完全ながらも栄養補給の魔法を作り出した。


 本当は魔力からのみで完全生成したかったが、一部栄養素が知識不足などから出来ず、摂取してある栄養素を触媒にする形で増殖してカバーした。


 そのため、この魔法だけで食事不要は出来なかった。


 安全性は自分の身体で実験して問題ないことを確認している。


「ねえ、この戦争いつまで続くのかな・・・・・・」


 明里は少し不安な表情で僕に聞いてくる。


 明里がこう言ったことを聞く時は、疲れが溜まっている時であるため、僕の仕事量を後でこっそり増やさないといけない。


「心配するほど長くはないと思うよ」


「・・・・・・奏多かなたは能天気なところがあるよね」


「この世の中、それぐらいの方が生きやすいんだよ。真っ暗な未来を考えても意味がないからね」


「うう、確かに」


 明里は賢いため、僕の言っていることを理解して納得の表情を浮かべる。


 明里を安堵させながら戦争のことについて考える。


(全く、国も怠惰だよな。終わらせようと思えばすぐに終わるだろうに)


 戦争と言っているが、規模はそこまで大きくない。


 前世で例えるなら中規模の会社が国というより県を相手に戦っている感じ。


 もっと分かりやすく例えるなら、戦国時代の戦ぐらいの規模感。


 まあ、これが東京などであれば、国も本気で対処したかもしれないが、長崎県の端っこで発生しているため、国もなかなかにやる気がない。


 現地の人員でギリギリ対応できているのも、これを加速させている。


(まあ、もうそろそろ終わるし、どうでもいいか)


 この戦争はもう半年も続かない。


 なぜなら、実践経験を積むために僕が敵の拠点を潰しているからだ。


(戦争は実践経験積み放題だから最高だよね)


 やはり強くなるためには、実技ばかりではなく実践も必要だ。


 前世では、道場破りや不良を襲ってボコボコにしていたが、命のやり取りがない分どうしても効果が薄かった。


 しかし、命のやり取りが行われる戦場は違う。一つの油断が命取りになるあの厳しい環境は、僕の感覚を鋭くするだけではなく、知識を経験に、技術を技へと昇格させてくれる。


(戦争があったことだけは感謝しないとね、実践経験がない最強なんてね、冗談にも程があるよ)


 相手が、人体実験している悪人なのも、始末するのに頭を使う必要がないので助かっている。


(新作のボディスーツもできたことだし、今夜、潰しに行きますか)


 今夜の実践に想いを馳せながら、僕は明里が休めるようにいつもより少し多めに仕事をするのであった。

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