第6話

男のひと、一瞬、おや、という反応をするが、

すぐに、あの時の。と、言う。

「よく覚えてくれてたね。そうじ係の木下つとむ。」


覚えてたわけじゃない、手紙で知っただけなのに。ぼくは うまく答えることができない。


木下のおじさんは ぼくが持つ手紙をちらと見た。

「それは、すぐる君に向けて わたしが書いた手紙だね。君が持っていてくれてるんだ。

手紙を送ったこと、すこし後悔しているよ。

『君はヒーローです。』なんてこと、たやすく書いちゃ、いけなかった。

でも、あの時、探し物をして うろちょろしていた時、『おじさん、あぶない!』と言って、

迫ってくる車から私をかばってくれたすぐる君のこと、表す言葉を、他に、

私には思いつけなかった‥。それではまた。

気をつけて帰ってね。」

しごとの帰りか、それだけ言うと、

木下のおじさんは行ってしまった。


遠ざかる木下のおじさんの背中に向かって、

のらねこ お岩が手を振っている。

「さようなら。」


すぐる君。小学校の同級の、いや、同じクラスではないけれど、同学年にそういう名前の子がいた。ぼくは思い出しはじめていた、あの日のこと‥


その、すぐる君とお母さんの母子2人に、ぼく1人の、3人で、小学校の秋の遠足の下見をして、その帰りに、この道を歩いていた。

帰り際 ギフトショップに寄ったその後、

そこで(駐車場で)車の事故が起きたんだ。

木下のおじさんをかばって、すぐる君が犠牲になってしまったんだ。


なんだよ、なんだよ!

木下のおじさんが変な動きをしたからいけないんだ、だから車の運転がおかしくなってしまったんだ、それなのに、なんだよ、木下のおじさんは さっさと行ってしまって。

ぼくは叫びだしそうになっていた。かっかしてきたぼくとは逆に、

のらねこ お岩が、しずかに、ぽつり、つぶやいた。

「でも、まだ、なぞは1つ残っている。

木下のおじさんは なんで うろちょろしていたのか。」


「踊っていたんじゃないの。そうじの踊りを。」と、〝お岩に〟。


のらねこ お岩が言い返す。

「木下のおじさんは なにか探してたって言ってたよ。」


‥ふたりのやりとりを聴いてるうちに、もう疲れちゃったよ。本当は ぼくが1番に考えなくちゃいけない、でも、きょうは、頭を使った、

立ちっぱなし、歩きどおしで、疲れたよ。

どこかに座りたい。近くのベンチに腰かける。

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