第3話うしなった記憶

「わては、のらねこ お岩。

となりの、白いぼうしをかぶっているのは

〝お岩に〟って言うんだ。

いまね、風みたいなのが横切ったけど、速くて見えなかったよ。

君、お名前は?小学校のおともだちとはぐれちゃったの?」


「ぼくは、瀬戸際たすけ。あの、ぼく、

探してる男の子が小学校の子か、よくわからないんだ。でも、男の子はぼくの名前を知っていた。その子に呼ばれなかったら、きっと ぼくはじぶんの名前まで わからないままだった、

それくらい、近ごろのぼくは少し変なんだ。

記憶のところどころ、抜け落ちているんだ。

でも、どうしても、ぼく、男の子に

この紙を届けないといけないんだ‥」


ぼくの消えそうなつぶやき、これに答えたのは、

白いぼうしの〝お岩に〟。

「頭を強く打ったりすると、記憶そう失になるみたいだね。」


記憶そう失って、言葉、聞いたことがある!


「頭。頭といえば。わたしも頭の手術をしたことがあるよ。」


「〝お岩に〟が、頭の手術を。頭をけがしたの?」

のらねこ お岩が心配そうに〝お岩に〟を見ている。


「のらねこ お岩のような頭になるために、頭の手術をするかわりに、この白いぼうしをかぶっているよ。ほら、傷あとを縫ったように縫い目でたくさん、ぼろぼろになっているでしょ。」


「なあんだ。そういうことか。

たすけ君の頭も傷があるように見えないよ。」


その言葉に、〝お岩に〟が すこし考えて、言った。

「頭でないなら、心の問題かもしれない。

心が なにかショックを受けると一時的に記憶をなくすって、聞いたことがあるよ。」


ぼくの心に、問題が‥

でも、ぼくの心は どこかに行ったきり戻ってこないから、〝ぼくの心〟なんてものに問いかけようとしても、そんなこと、できるはずがない。

そのことを、ふたりに打ち明けようか、迷っていた時だった。のらねこ お岩が、明快に、答えた!


「そうだ! みんなで、たすけ君のなぞを解いてみよう。それ、それだ、たすけ君の持っている、その紙。それは一体なんなの?」


男の子に追いつかず、手渡せなかった。


みんなで紙きれを囲む。そこには、たった一言。

『君はヒーローです。 木下つとむ』

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