第8話

マンションの部屋に帰ったのと同じくして、メッセンジャーが封筒を届けてきた。

送り主は雅。


封を開けると、琴音の情報が書かれたA4の紙が1枚と写真が入っていた。

情報と言っても、誕生日や家の住所、趣味や電話番号なんかはない。


通っている大学名と学部、それに時間割。あとはよくいる場所程度で、役に立ちそうなものは何もない。

高校生の制服を着た琴音の写真と、なぜか婚約者の男の写真が入っていた。



こっちのことは隠してきたことまで調べ上げたくせに、琴音の情報は出し惜しみかよ?

あの女、ふざけんな。


それでも……言われたことをやるしかない。



「何かあった?」



部屋の隅に片膝を立てて座っていた叶和が声をかけてきた。



「何も」



叶和は女Aを庇ったせいで、女Bから恨まれ、その手下みたいなやつらに動けなくなるまで殴られた。

ベッドで寝とけと言ったら、「横になると痛い」と言ってずっと固い床に座っている。



「せめてベッドの上で座っとけよ。こっちが気になる」


「……うん」



叶和は、ゆっくりと立ち上がると、やはりベッドの隅に座った。

男の俺が見てもきれいだと思えるその顔だけは殴られていない。

だから一見すると何ともないように見える。


叶和は同じFILOUで働いているバーテンで、本人は27歳だと言うが絶対嘘だ。俺と同じ年のわけがない。それよりかなり年下のはず。

いつだったかそのことを指摘したことがある。



「叶和、本当は何歳なんだよ?」


「27ですよ」


「嘘ならもっとうまくつけよ。まぁどうでもいいけど、あんまりしゃべんなよ。しゃべったら年がバレる。とにかく笑っとけ。お前のその顔ならそれで許される」



その時、叶和は「ふっ」と幼い笑みを見せた。


かなり訳ありっぽいやつで、そのせいだからなのか、構わずにはいられない。


今回も、体中の痣を見てしまったせいで、どうしても放っておけず家に連れて帰ったけれど、俺じゃあ何もしてやれない。


どうしたものか……結局これも女のせいなんだ。

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