5
――
「でね、でね!ポップコーンなの!キャラメルなの!」
メイペスへの授業に無理矢理一段落つけ、畑で玉蜀黍の収穫に加わっていたパートロ。
突然飛び出して来たメイペスの対応に困惑していた。
ポップコーン…?まだ引きずっているのか?
そもそも、お祭りでもなきゃ、焜炉も確保できんだろう。
二年前、ミリタフがエデノに永住が決まって初めての新年のお祭りの時、合間に拵えてくれたおやつ。
爆裂種の玉蜀黍は、食堂に並ぶから食べてはいたけど。
旨いか?と言われたらどんな調味料をかけようとも、旨いものではない。
スープだろうが、茹でようが、固い。
新年のブドウマメより固い。
それが、乾かして火にかけると弾けて柔らかくなる。
全く、スゴいよなってヴレノシュと感心したっけ?
で、何だっけ?
「聞いてた?!パートロ。レイ・グレコがポップコーンなの!アンスタウトがパートロ呼んでこいって!」
後半はともかく、前半の意味が分からない。
「メイペス、気をつけ!はい、息を吸って、吐いて、吸って、吸って…」
「パートロ!!」
「はいはい。もう少しでおやつだろ。それまで収穫させろ。ただでさえ今日は遅れてるんだぞ」
と、パートロが言うとメイペスはおとなしくなった。
「……私のせいだ……手伝う!」
「そろそろいいだろ。メイペス、行くぞ」
「はぁい!おやつ♪おやつ♪」
「……」
「何か言いたそうね、パートロ」
「いや、アンスタウトも大変だな、と思って」
「?」
「ま、いいさ。ゆっくりで。さ、今日は芋か?」
「子供たちにって作るから、余ったらパートロにも分けるね、ポップコーン!」
「今日のお前の頭ん中は、そればっかだな…ある意味スゴいわ」
「へへ」
「……褒めてないぞ」
二人が食堂に向かうと、配膳棚には出来立ての蒸かし芋が大皿に用意され、入り口には屋台の焜炉が三つ並んでいた。
「…へぇ…お祭り以外で屋台を見るのって、なんか不思議ね…ああ、でもミリタフとリタフォが作ってくれたときも……こんな感じだったっけ?」
「いや、あの時は焜炉一つだったろ?三つもどうするんだ?」
ああ、と呑気な声を出すメイペスだが、合点はいってないような生返事だ。
「沢山…出来る?」
「爆裂種なんて、そんなに保管してないだろ?畑だって三尺四方しかないんだぞ」
「何でそれだけをわざわざ作ってるの?」
「……メイペス…教えた筈だぞ。初めの旅人が心胆から受け取ったものだからだ!」
「そうでした」
そう、五百年の間、食べ方も分からないのに、ただ作っていたのだ。
ひっそりと、でも絶やさないように。
「すごーい!甘い匂い!え?なんで?なんで?ピンクにイエロー!」
焜炉の前まで来ると、メイペスの語彙はまるで役に立っていなかった。
初めて見る、色とりどりのポップコーンに目を奪われている。
もちろん、メイペスだけではない。この地で生まれたものは皆一様に、釘付けだ。
僅かに、この地に永住を決めてくれた新来者は、「懐かしい…」と、溢しているのが耳に入る。
そうか、この色とりどりのお菓子は、特別のものではなく、懐かしいと思う程度には慣れ親しんでいたものなのか。
生活の事であれば幾らでもフォローする。
けれど、嗜好はそうはいかない。
……
「きゃあ!」
……
ぽんぽんと弾けるポップコーンに、子供よりも燥ぐメイペス。
注意しようと口を開きかけたその時、すっと口の前に人差し指を立てたアンスタウトが目に入った。
ヴレノシュと良く似た面差し。
微笑めば尚更、彼の人を思い出さずにはいられない。
黙れってか…
アンスタウトが言うなら、黙っておくべきなんだろう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます