――

「でね、でね!ポップコーンなの!キャラメルなの!」

 メイペスへの授業に無理矢理一段落つけ、畑で玉蜀黍の収穫に加わっていたパートロ。

 突然飛び出して来たメイペスの対応に困惑していた。

 ポップコーン…?まだ引きずっているのか?

 そもそも、お祭りでもなきゃ、焜炉も確保できんだろう。

 二年前、ミリタフがエデノに永住が決まって初めての新年のお祭りの時、合間に拵えてくれたおやつ。

 爆裂種の玉蜀黍は、食堂に並ぶから食べてはいたけど。

 旨いか?と言われたらどんな調味料をかけようとも、旨いものではない。

 スープだろうが、茹でようが、固い。

 新年のブドウマメより固い。

 それが、乾かして火にかけると弾けて柔らかくなる。

 全く、スゴいよなってヴレノシュと感心したっけ?

 で、何だっけ?


「聞いてた?!パートロ。レイ・グレコがポップコーンなの!アンスタウトがパートロ呼んでこいって!」

 後半はともかく、前半の意味が分からない。

「メイペス、気をつけ!はい、息を吸って、吐いて、吸って、吸って…」

「パートロ!!」

「はいはい。もう少しでおやつだろ。それまで収穫させろ。ただでさえ今日は遅れてるんだぞ」

 と、パートロが言うとメイペスはおとなしくなった。

「……私のせいだ……手伝う!」

 


「そろそろいいだろ。メイペス、行くぞ」

「はぁい!おやつ♪おやつ♪」

「……」

「何か言いたそうね、パートロ」

「いや、アンスタウトも大変だな、と思って」

「?」

「ま、いいさ。ゆっくりで。さ、今日は芋か?」

「子供たちにって作るから、余ったらパートロにも分けるね、ポップコーン!」

「今日のお前の頭ん中は、そればっかだな…ある意味スゴいわ」

「へへ」

「……褒めてないぞ」


 二人が食堂に向かうと、配膳棚には出来立ての蒸かし芋が大皿に用意され、入り口には屋台の焜炉が三つ並んでいた。

「…へぇ…お祭り以外で屋台を見るのって、なんか不思議ね…ああ、でもミリタフとリタフォが作ってくれたときも……こんな感じだったっけ?」

「いや、あの時は焜炉一つだったろ?三つもどうするんだ?」

 ああ、と呑気な声を出すメイペスだが、合点はいってないような生返事だ。

「沢山…出来る?」

「爆裂種なんて、そんなに保管してないだろ?畑だって三尺四方しかないんだぞ」

「何でそれだけをわざわざ作ってるの?」

「……メイペス…教えた筈だぞ。初めの旅人が心胆から受け取ったものだからだ!」

「そうでした」

 そう、五百年の間、食べ方も分からないのに、ただ作っていたのだ。

 ひっそりと、でも絶やさないように。


「すごーい!甘い匂い!え?なんで?なんで?ピンクにイエロー!」

 焜炉の前まで来ると、メイペスの語彙はまるで役に立っていなかった。

 初めて見る、色とりどりのポップコーンに目を奪われている。

 もちろん、メイペスだけではない。この地で生まれたものは皆一様に、釘付けだ。

 僅かに、この地に永住を決めてくれた新来者は、「懐かしい…」と、溢しているのが耳に入る。

 そうか、この色とりどりのお菓子は、特別のものではなく、懐かしいと思う程度には慣れ親しんでいたものなのか。


 生活の事であれば幾らでもフォローする。

 けれど、嗜好はそうはいかない。

 ……

「きゃあ!」

 ……

ぽんぽんと弾けるポップコーンに、子供よりも燥ぐメイペス。

 注意しようと口を開きかけたその時、すっと口の前に人差し指を立てたアンスタウトが目に入った。

 ヴレノシュと良く似た面差し。

 微笑めば尚更、彼の人を思い出さずにはいられない。

 黙れってか…

 アンスタウトが言うなら、黙っておくべきなんだろう……


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