――

「さすがにもう、ここにはいないわよね」

 パートロを探しに、さっきまでいた学教室に来てみたけど、パートロはパートロで仕事があるのだ。

 メイペスに、大事な収穫の時間を割いてまで、いろんな事を教えてくれていた。

「でも、そういうもんだって思うより仕方がないのよね…」

「全く、パートロもとんだ無駄骨よね」

「リタフォ…」

 本格的に落ち込んでいるメイペスに、リタフォはちょっと言い過ぎたと後悔して、抱き締めて頭を撫でた。

「…まぁた、考えすぎでしょ。意外と悪い人ばかりでもないわよ、外の人も」

 彼女が悩むことは、このエデノと外の事の差異だ。

 あの、祖先でもある『最初の旅人』の話を聞いて、二人して大泣きした。

 けど、リタフォはミリタフと出会った。

 ちょっと頼りないけど、心根の優しいミリタフ。

「……ミリタフは鍵をかけなかったの?」

 唐突に聞かれたものの、何の事かは理解の範疇だ。

 全く、割りきることの出来ない子だなあ…

「かけてたわよ。そりゃ厳重にね。でも、まさか家族になりたいと考えてた人に、別に家族がいるなんて思わないじゃない」

「家族って、大事なんでしょう?何で嘘をつくの?エデノは……ここは、だれも嘘なんてつかないのに……」

「本当に?」

「え?」

「私たちは知ってるけど、他の人たちが知らないことがあるじゃない。それは嘘じゃないの?」

「…………あ……でも……」 

「なぁんてね。最初の旅人の話は、私たちだけが知っていればいい話なのよ。ごめんね。嘘じゃないの。内緒事。あんな酷いことを繰り返さないで、て言う心胆の心根」

 

 微笑むリタフォに、メイペスは訪ねる。

「あのね、リタフォ。私さっき、ポップコーンが食べたくて貯蔵庫から玉蜀黍を持ってきたの」

「は、はい?」

「これって、言ったら嘘じゃないよね!言ったからね!」

「ちょ、ちょっと待って。厨房は使えないし、私もまだ子供たち見てなきゃだから作れないよ。どうやって作るの!」

「レイ・グレコが作ってくれるんだって!キャラメルのポップコーン!」

「キャラメル?」

「うん!塩味以外にもあるんだって。みんなで食べようねえ 」

 

 まったく、なんてことだろう。

 さっきまで、泣きそうにしていたのに。

「やっぱ、メイペスだわ。パートロが反対を押しきってまで選んだ筈だ」

「え?」

「それで、いいんじゃない?そんなところから学んでいけばいいよ、メイペスは」

「えーお勉強…?」

「そ、お勉強」


 膨れっ面して唇を尖らせているメイペスだけど、ちゃんと分かってくれるって信じてるよ。

 旅人と、心胆の願いはもっと大きなものだって。

 

「パートロなら、畑で収穫してるから。私は子供たちが待ってるから行くね。おやつ出来たらご相伴に預かるから、ちゃんと食べられるもの作るんだよ」

「うん!レイ・グレコは朝のスープも美味しくしたんだ!きっと美味しいよ!また呼びに来るね!」

 そう言うと、先に部屋を出ようとしたリタフォを追い越して出ていった。

 

「まったくもう、所帯持ちって分かってるのかしら?落ち着かない子だこと」

 ふうーっとリタフォはため息をついた。

 

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