2
厨房には、厨房の係がいる。
役割はその者が全うすることに意味があり、やらなすぎるのは勿論、やりすぎてもいけない。
ましてや、自分は“把握”の役割を持つのだ。
自ら“約束”を破るわけにはいかない。
「いいんじゃないですか?」
と、言うのはアンスタウト。
でも……と、続けそうなメイペスの言葉を遮り、グラスコ・グレコが会話を奪う。
「別に、仕事を奪う訳じゃない。一緒にやればいい」
そう言うと、にいっと笑った。
褐色の肌に、白い歯が覗く。
ちょっと、怖い。
「最悪、グレコ様が釜戸の一つでも作ればいいだけの話です」
「おうよ…!……て、釜戸って!何作らせるだ、レイノシュ!」
レイ・グレコを叩くように、グラスコ・グレコがむきっと片腕をあげる。
あんな華奢な体なのに、あんな牛みたいな体の人に怒鳴られて、怖くないのかしら?
「あなたなら、石窯でも小一時間もあれば作れるでしょ?」
「……いや、レイノシュさん。さすがに石窯を一時間じゃ…土を乾かす時間は俺にはどうにもできん」
これは?喧嘩なの?
「土を使わなければいいじゃないですか」
「おう!それもそうだ!」
「あなたは莫迦なんですか?」
「なんだと!髪、弄るぞ!」
「嫌です」
再び、ぐわっとあげたグラスコ・グレコの手は、がしっとレイ・グレコの頭にのる。
「だから!嫌だって言ってるでしょう!」
そう言いながらも、二人はにこにこしてて…
「喧嘩じゃないぞ。メイペス。心配すんな。いつものコミュニケーションだ」
グラスコ・グレコの指は、レイ・グレコの髪をくるくると巻いている。
「なあ?メイペス。その子供たちってのは何人いたっけ?」
レイ・グレコがぴしっとグラスコ・グレコの手を弾く。
ん、あの大きな手で髪をぐるぐるやられるの、やだよね。
「え?あ、ああ。八人…だけど?」
「レイノシュ、八人分だと玉蜀黍は何本いるんだ?」
けど、グラスコ・グレコは、弾かれた手を引っ込めることなく、また髪に戻る。
つねられてる……
「そうですね、この大きさなら十本もあれば事足りるかと」
諦めたような顔をして、グラスコ・グレコはメイペスの脇に寄る。
「だとよ、メイペス、五本持て」
と、玉蜀黍を渡される。
「え?今、十本って…」
「残りは俺が運ぶさ」
「ぼくも持ちますよ」
と言うアンスタウトを遮って、グラスコ・グレコが耳打ちしてる。
「……ああ、そうですね。そこまで思い至りませんでした」
何を言ったのだろう?
メイペスの腕の中には五本の玉蜀黍。
確かに十本は頑張れば分けなく持てるけど、重さよりも嵩のほうが心配だった。
五本なら余裕。
…………もしかして、わざとなのかな?
私が多く持つことで、責任を持ちなさいって。
…………でも、罪の意識はホンのちょっと軽くなったのも本当。
私が食べたいって言ったのに、何もかも委せちゃダメだ。
「行きましょう!」
ん。いっぱいお手伝いしよう!
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