メイペス 3
1
メイペスは四苦八苦していた。
ただでさえ広いインスラの地下の貯蔵庫。
三千人が、腐らせず、適切な期限で消費出来る量の保管。
ここの“把握”は、メイペスにとって何よりも優先すべき仕事だ。
「小麦…芋…人参…あ、あった!ポップコーンの玉蜀黍!」
今日のおやつ分、と称して持ち運びたいのだが、三千人分て、どれくらいだろう?
いつもは、棚卸しで貯蔵庫の中の数を数えるだけで、使用分の振り分けは“整合”であるアンスタウトがしている。
「もしかして、担当でない仕事をしたり、自分が食べたいからと、おやつを選ぶのは“平等”から外れるのかしら?」
ふと、手を止めて考える。
――――
ご免なさいって謝ればいいよね。
おやつは必要だもん。
ちゃんと報告すれば、大丈夫!
「おや?メイペス?今日は棚卸でしたか?
離席していて申し訳ありません」
「ひああ!…って、アンスタウトこそ――どうしたの!泥だけじゃない!」
「ぼくは小用で、あれ?でも棚卸は今日じゃないですよね?どうしたんです?」
「盗み食いかぁ?」
アンスタウトの後ろから、隠れきれてなかったグラスコ・グレコが若気顔を覗かせる。
「そんなわけないでしょ!おやつの準備よ!」
「でも、今日のおやつは蒸かし芋で、厨房には昨夜のうちに運び込んでいたはずですが?」
澄ました顔でアンスタウトが言う。
あからさまにメイペスの顔は強ばっている。
「玉蜀黍…爆裂種ですね…これから出来るのは…」
グラスコ・グレコの背後から顔を覗かせたレイ・グレコが訝しげに呟く…
「ポップコーンが食べたくなったの!今日でなくていいから!明日でも、明後日でもいいから!」
至って素直にメイペスは答える。
元より嘘を吐くなんて出来やしない。
その顔は、泣くのを堪えているように眉根を寄せている。
「でも、今日食べたいんだろ?」
「ぐっ!それは…そう…だけど…」
メイペスは、見透かしたように若気顔をやめないグラスコ・グレコに、つい尻込みしてしまう。
見かねたアンスタウトが口を挟む。
「それでは子供たちのおやつにするのはどうですか?玉蜀黍は住人全員分には足らないでしょう?子供たちの分であれば、直ぐにでも作れるのではないですか?………?メイペス?どうしました?」
「つい、食い気だけでここまで来たけど…リタフォのお手伝いはしたことあるけど、一から作ったことはないことに気付きました…リタフォは収穫だし…どっちにしろ今日は無理だ…」
一瞬明るさを見せた表情は、再び沈み混んでしまった。
「ポップコーンでしょ?厨房に入ってよいなら、僕が作るけど?」
「作れるの!」
レイ・グレコの尻馬に乗るメイペスは、パラパラと捲る絵物語の様に表情が変わる。
泣いた烏が笑うとは、よく言ったものだと、その場にいた男たちはしみじみ感心する。
「だって、熱を加えるだけじゃない。味変するにしても、別に特別なことは必要ないし」
「?味変て、なあに?」
「……バターだったり、チーズだったり、ジャムでもいいし…ちょっと手間をかけるならキャラメル味だってあるじゃない?」
「キャラメルがポップコーンになるの?!」
食い気味に詰め寄るメイペスの勢いに、今度はレイ・グレコが後退る。
「厨房を貸して貰えれば、の話だけど」
そう言われると、メイペスは口を閉ざし、考え込んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます