メイペス 3

メイペスは四苦八苦していた。


 ただでさえ広いインスラの地下の貯蔵庫。 

 三千人が、腐らせず、適切な期限で消費出来る量の保管。

 ここの“把握”は、メイペスにとって何よりも優先すべき仕事だ。

 

「小麦…芋…人参…あ、あった!ポップコーンの玉蜀黍!」

 今日のおやつ分、と称して持ち運びたいのだが、三千人分て、どれくらいだろう?

 いつもは、棚卸しで貯蔵庫の中の数を数えるだけで、使用分の振り分けは“整合”であるアンスタウトがしている。

「もしかして、担当でない仕事をしたり、自分が食べたいからと、おやつを選ぶのは“平等”から外れるのかしら?」


 ふと、手を止めて考える。

 ――――

 ご免なさいって謝ればいいよね。

 おやつは必要だもん。

 ちゃんと報告すれば、大丈夫!


「おや?メイペス?今日は棚卸でしたか?

 離席していて申し訳ありません」

「ひああ!…って、アンスタウトこそ――どうしたの!泥だけじゃない!」

「ぼくは小用で、あれ?でも棚卸は今日じゃないですよね?どうしたんです?」

「盗み食いかぁ?」

 アンスタウトの後ろから、隠れきれてなかったグラスコ・グレコが若気顔を覗かせる。

「そんなわけないでしょ!おやつの準備よ!」

「でも、今日のおやつは蒸かし芋で、厨房には昨夜のうちに運び込んでいたはずですが?」

 澄ました顔でアンスタウトが言う。

 

 あからさまにメイペスの顔は強ばっている。

「玉蜀黍…爆裂種ですね…これから出来るのは…」

 グラスコ・グレコの背後から顔を覗かせたレイ・グレコが訝しげに呟く…

「ポップコーンが食べたくなったの!今日でなくていいから!明日でも、明後日でもいいから!」

 至って素直にメイペスは答える。

 元より嘘を吐くなんて出来やしない。

 その顔は、泣くのを堪えているように眉根を寄せている。

 

「でも、今日食べたいんだろ?」

「ぐっ!それは…そう…だけど…」

 メイペスは、見透かしたように若気顔をやめないグラスコ・グレコに、つい尻込みしてしまう。

 

 見かねたアンスタウトが口を挟む。

「それでは子供たちのおやつにするのはどうですか?玉蜀黍は住人全員分には足らないでしょう?子供たちの分であれば、直ぐにでも作れるのではないですか?………?メイペス?どうしました?」

「つい、食い気だけでここまで来たけど…リタフォのお手伝いはしたことあるけど、一から作ったことはないことに気付きました…リタフォは収穫だし…どっちにしろ今日は無理だ…」

 一瞬明るさを見せた表情は、再び沈み混んでしまった。

 

「ポップコーンでしょ?厨房に入ってよいなら、僕が作るけど?」

「作れるの!」

 レイ・グレコの尻馬に乗るメイペスは、パラパラと捲る絵物語の様に表情が変わる。

 泣いた烏が笑うとは、よく言ったものだと、その場にいた男たちはしみじみ感心する。

 

「だって、熱を加えるだけじゃない。味変するにしても、別に特別なことは必要ないし」

「?味変て、なあに?」

「……バターだったり、チーズだったり、ジャムでもいいし…ちょっと手間をかけるならキャラメル味だってあるじゃない?」

「キャラメルがポップコーンになるの?!」

 食い気味に詰め寄るメイペスの勢いに、今度はレイ・グレコが後退る。

 

「厨房を貸して貰えれば、の話だけど」

 そう言われると、メイペスは口を閉ざし、考え込んでいる。

 

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