レイノシュとアンスタウトが大きく息を吐いて深呼吸をしている。

「?」

「体力的には楽になりますけど、精神的には苦ですよね」

 と、アンスタウトが言うと、

「これだけ警戒するなら、挨拶くらい出てくればいいのに」

 レイノシュが答えている。

 くすくすと笑い合う二人は、兄弟というよりは姉妹のようでもあると思ったら、二人から冷たい視線を受けた。

 お前ら、絶対、心読んでるだろ?と思わずにはいられない。

 

「なんか、俺だけ蚊帳の外か?」

「いじけなくても教えますよ。ほら、ここであなたの膓を詰め込んだんです」

「は?」

 そこにはベッド…と言うより酸素カプセルを彷彿とさせる物体が横たわっている。

 

「ここが、ランデフェリコです」

 アンスタウトが言う。

 レイノシュが、苦笑いを浮かべている。

「ぼく、ここで生まれたんだ」

 恐らく、力のことより秘密にしておきたかった事の筈だ。

 出生に関して何十年も割らなかった口を事も無げに白状する。

 もっとも『ランデフェリコ』何て言われても何処だ?それ?としか言えないのだけど。


「そっちの部屋で生まれたんですけどね。恥ずかしいから見せてあげません」

 レイノシュが指を指した方を見ると、アンスタウトも困ったような顔をしている。

「えっと、じゃあお前らは兄弟なのか?」

「そんなようなモノですね。少なくとも姉妹じゃありませんよ」

「レイノシュて、テレパス能力もあるのか?」

「ありませんよ。あなたが解りやすいだけです」

 アンスタウトが大きく頷いている。

 おかしいな?クールな獅子の筈なんだか。


「獅子何て言って、猫アレルギーじゃないですか」

「そうなの?!」

「うるさい!戯れるぞ!」

「アンスタウトにどうぞ」

「え?何で?」

 レイノシュはするりと逃げたので、逃げ遅れたアンスタウトの肩を抱き、髪に触る。

「何ですか~これ」

 怯えたようにレイノシュに助けを求めているが、こいつは助けんぞ。

「それがその方の精神安定剤みたいです。堪忍して犠牲になってください」

 やはり不遜だと思うぞ。


 いつまでも戯れてても仕様がないので、その部屋を見回す。

「この、酸素カプセルみたいなのは何だ?」

「ヴィタスフィアって言うらしいです。恒常性維持や再生促進、感染防御に 代謝管理、精神安定効果や外的モニタリングまでやってくれて、術後に楽なんですよ」

 相変わらずの飄々とした調子でレイノシュが説明する。

 楽?おい?

 

「それにしても、これだけ異様な佇まいだな。……ガラス…石か?」

 レイノシュとアンスタウトが顔を見合わせて首を傾げている。

 フワッと髪の毛が揺れて、触りたい欲が顔を除かせる、が退かれる事は目に見えているので伸ばそうとした手を引っ込める。

 くすっと笑い声が耳に入り、自分の行動が筒抜けだったことに気が付く。

「あなたって人は、全くブレませんね」

「お、おうよ…」

「褒めてませんよ」

 

「これね、ここに五百年あるんですって。機能は知っていたから、可能性に賭けてみたんですけどね。成功して良かった」

「はあ?」

 飛び出した間抜けな声は、五百年に対してなのか、得たいの知れないものに可能性を賭ける潔さになのか……両方だな。


「このヴィタスフィアはね、琥珀を使っていて、何でもこれが細胞を活性化させる酵素が出るんですって。まあ、僕もそのくらいしか知らないんですけど」

 レイノシュが肩をすくめた。

 そしてその淡々とした態度を崩さぬまま、ヴィタ…なんとかに…一拳する。

「……痛い」

「だろうな」

「何をしたいんです?」

アンスタウトと純粋な問いかけに、レイノシュは視線を反らした。

「さて?何がしたいんでしょうね。強いて言えば、どうなるか知りたいのでしょう」

 五百年も、こんな形で有ったならそう脆いものでも無いとは思うが、レイノシュのやりたいことに検討が付かない。

 耐久性を調べていたと納得しよう。


 アンスタウトが所在無さげに彷徨き、別の扉に手を掛ける。

「グラスコさん、こっちが面白いですよ。見てみて下さい」

 珍しく感情的になっているレイノシュの気を反らすためか、アンスタウトは燥いだように声を掛けてくる。

 いつの間にそんなに仲良くなったのだろう、妬くぞ。


「うわあ」

 扉の向こうには、バイオプラントが並んでいた。

 牛と鶏も確り確認できる。

 工場のようでもあり、農場のようでもあり、そのどちらでもない異様で不思議な光景。

「これが、あのエデノの奇怪な生産率の秘密って訳か」

「そうです」

「……これをどうやってエデノに運んでるんだ?ここに人手はなさそうだが?」

 アンスタウトが無言で指差した先には、大きな搬入口があって、そこに向かって植物やらが動いている。

「ああ、床が動いているのか、そうだよな」

 ベルトコンベアよろしく規則正しく搬入口へ消えて行く。

「あそこは?」

「エデノの地下ですよ。地下の貯蔵庫です。見に行かれたでしょう?」

 何とも至れり尽くせりのエデノの仕組み。

「これは、僕しか知ってない事なので、くれぐれもご内密にお願いします」

 アンスタウトが、口の前に指を立てて言う。

 外堀から物凄い勢いで、埋め立てられている気がするぞ?


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