グラスコ・グレコ2

 木製の地球儀とか、天球儀何かあったら、本当に映画の魔法使いの部屋だよな、と思う。

 違うのは、埃の臭いが無いこと。

 そして、机。

 一見、木製のだが、明らかに違う。


「気になりますよね」

 アンスタントが、徒に微笑みながら言う。

「気になるって言えば、答えは貰えるのか?」

「さあて、どうでしょう?」

 試すような声音はレイノシュと良くにている。

 ……

 そっと手を伸ばし、アンスタントの髪に触れる。

「なんですか、それ」


 金色と黒色の違いだけで、アンスタントとレイノシュの髪はまるで同じだ。


「…………」

 沈黙を破ったのは、アンスタント。

 

「その事は、またの機会にお願いします。今は……」

 どの事だ?と思わなくもないが、俺がここに居るのは、近親婚というモラル的にも、生物的にも難問に立ち向かうためだ。


「その、なんだ?メイペスの親と、アンスタント、お前さんの親が同じっていうのは、メイペスはお前さんの姪ってことになるのか?」

「……どうなんでしょう?生物学的には限りなくそうなんでしょうけど……今から、ちょっと気色悪い話になりますけど、いいですか?」

「どの方面にだ?あまり、血みどろのスプラッタとかは得意じゃないが」

「スプラッタではないですね。倫理的にです」

「…………き、聞かせて貰おうじゃないか」

「あのですね……」


 俺は何で聞いてしまったんだろうと、後悔した。


「……で、あいつらはそれを知ってるのか?な、訳もなさそうだが」

「知りませんね。彼らはぼくたちの出自に関心はないはずです。受け入れるだけですから」

「お前らは、神にでもなるつもりなのか?昔の王様みたいに」

「大きなお墓たてて?違いますね。寧ろ神は否定されてる」


 もう一人、誰かいるのが見える。

 けれど、その事には触れるつもりはないらしい。

「これでも、申し訳ないとは思うのですよ。核心をお話しせずに、聞いて貰ってるのですから」

 アンスタウトは無理して笑っている。

 その顔は、レイノシュと重なる。

 と、いうか…

 俺は思わず目を擦る。

 いや、違う人間だ、と言い聞かせる。

 どうかしてる。

 アンスタウトとレイノシュが似て見えるなんて。


「眠たいですか?」

「いや、そうじゃない…」

 言葉半ばに、この部屋には似つかわしくない音が突然鳴り響く。

「何だ?!」

 アンスタウトはキーボードを操作して現状を確認しているようだ。

 俺はどうすればいいのか戸惑っていると

「そこにあるグラスを着けて、モニターを見てください!」

 先程までの調子の良い口調とは打って変わって緊張した声で指示される。

 慣れぬ手付きで片眼鏡を嵌めて、モニターを見る、と。

「マルボナ・ユウロ……」

 俺は目にしたものが信じらなかった。

 なぜやつが、ここにいる?

「侵入者です。行きますよ」

 モニターのマルボナは、崖を登ろうとしていた。

 もしリアルタイムの映像なら、まだこの地には着かないだろう。

 アンスタウトは俺の手を掴んだ。


「行きますよ!」

「どうやって!」

「走るしかないでしょう!」

 アンスタウトが焦っている。

 初めて見る、動揺が隠せない表情。

「ちょっと待て」

 と、俺は腕の端末に話しかける。

「レイノシュ、ここに来い」

「え?無理ですよ、ここは…」

「何勝手にばらしてるですか。他人がいるならそう言ってて下さらないと困ります」

「え?」

「話しは後だ。レイノシュ、これつけて、ここ見ろ。悠長なこと言ってられなくなる」

 と、俺は自分のしていた片眼鏡をレイノシュへ渡す。

 意外にもレイノシュは付け方を知っているようで、何の戸惑いもなく装着した。

「マルボナ…なぜここが…」

「行くぞ」

「…もしや、これもですか?」

 と、アンスタウトを指差すレイノシュ。

「後で話すことがひとつ減ると思え!」

 レイノシュは大きなため息をつくと、

「僕は何も話しませんよ」

 と、俺とアンスタウトの腰を両脇に抱えると、“移動”を始めた。


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