次は……鍵、か」

 また、難しいな。

 パートロは首を捻る。

 固有のものを持つことを良しとしないエデノの価値観に、鍵か。


「だって面倒なだけじゃない?外の人が来たときに入る部屋には『かぎ』はあるけれど、永住を決めた人の部屋にはないわ」

 メイペスは得意気に云うけれど。

 パートロは、それでも永住を決めても、鍵が無い事に納得して貰うまでは、それなりに骨は折れたんだけどな、とは思う。

 論点はそこではないのだろうことは分かっている。

 分かっているとも。


「先ず、金ってあるだろう?」

「作物とかと交換する謎の物体ね。紙や石と交換するんでしょう?」

 やっぱりここからか。

 パートロは頭を抱える。

【把握】を引き継ぎ時に、説明はした筈なんだけどな、飲み込めていないらしい。


 で、繰り返し教えた筈の金の価値から話す。

 作物と金が同価値と納得できず、そこばかりが繰り返される。


「分かったから。メイペスが分からないのは分かったから。ここは、一旦金ってのが持ち運び便利な作物と云うことで納得して貰えないか?」

 パートロは自棄っぱちで言うと


「わかった、一旦沢山の持ち運びに小型化した玉蜀黍と思うことにする」

 ……メイペスの頭は既に玉蜀黍で埋まっているらしい。

 今日の玉蜀黍は、爆裂種じゃないといつ言おう。


「で、金。これは玉蜀黍と違って持ち運びが便利なんだよ。なんたって土は付いていない。皮は向かない。それを、独り占めしたくなる人間てのがいるわけだ」

「独り占めは……」

 メイペスは、顰めっ面が外れなくなっている。


「ん、独り占めはよくないぞ。でも、外にはそんなやつがいるんだよ。ミリタフが言っていただろう?」

 メイペスは、旅人の話を聞いた直後のように泣き被っている。


 ミリタフはメイペスが初めて向かえた新来者だ。

尤も、メイペスはあくまでもお手伝いだったのだけど。


 ミリタフは懸命働いて貯めたお金を、根こそぎ盗られた。

 家庭を作って家族になるために、それは頑張って貯めたお金を、家族になりたかった人に奪われた。

 ミリタフが家族になりたいと願った人は、既に怖い家族があったのだ。


 その事で国に居られなくなって、逃げ出して、エデノに着いて、リタフォと仲良くなって子供を作った。


 やっぱり、家族とか金とかろくなもんじゃない、と言いたそうにしているメイペスを余所目に

「だから、鍵をかけるんだ。独り占めに見えるかもしれないけど。悪い人から、大事なものを盗られないように」


「ミリタフは鍵をかけていなかったの?」

 困った。

 それはそれで、別問題だった。

 そう来たか、とパートロは二回目の溜め息をついた。


「まあ、いいわ。外の人はとにかく、鍵をかけたいものなのよね」

 と、考えることを放棄したメイペスが言った。

 考えても分からないから、そういうもんだ、と納得する道を選んだらしい。

「それで、いいのか?」

「そのうち、分かればいいことなのかな、と理解した」


 我が子がやっと立った気がしたパートロだったが、メイペスが記した紙を改めて見ると、家族、癒しとあり頭を抱えた。


 

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