パートロ


「さて、先ずは……猫と、獅子か」

 本来は別物だが、メイペスには取り敢えず人と牛と鶏以外の認識をさせないといけない。

 だから、一緒でいい。

 パートロはメイペスより先に、自分を納得させる。


 メイペスの向かいに席を取り、テーブルの真ん中にメイペスの書いた紙と、白紙を並べる。


「先ずな、外の世界に、動物……生物……動いているものって、どれくらいいると思う?」

 パートロは、自分がヴイレノシュに聞いた時はどうだったかを思い起こす。

 人と牛と鶏以外に、生きているものがいると云う理から始まる。


「動いているもの?牛と鶏と、昨日聞いた『ねこ』と、『しし』?他にもいるの?三十くらい?」

両手を広げて、両足を上げている。

足は靴で見えないが、恐らく指を広げているのだろうなあ、とパートロは呆れる。

メイペスが思う、最大数て、三十なのか?

おれは、ここから先が、気が重くてしょうがない。


「七百万くらいの種類があるそうだ」

「ななひゃくまん?」

 それが何を意味しているのか解らずに、メイペスはただ鸚鵡返しする。

 やっぱり、数の単位からだ。

 これだから、算数はちゃんとやっとけと言ったのに、後悔先に立たず。

 これから一体、溜め息を何回つくことになるのか謎だけど、パートロは記念すべき一回目の特大の溜め息を放った。


 まず、万を理解させる。

「…………沢山てこと?」

「もう、それでいい」

「そんなに沢山、覚えていられるの?」

「覚えることはないだろう。メイペスの言葉を借りれば自分に関係あるかどうかだ。それに七百万ってのは、人に見つかっていない、名前がない、ものも入ってる」


「仕事はするの?」

「それなんだけど、メイペスの考える仕事ってなんだ?」

「人が生きるためにすること?」

「だな。そう言う意味では彼らは仕事しない。自分が生きるために仕事をする」

「同じことではないの?」

「メイペスの云う仕事は、『人間のため』だ。けど、それこそ獅子なんかは自分が生きるためだけに働く」


「ななひゃくまんが?」

「大きさが色々ある。牛の何百倍もあるものや、目に見えないくらい小さいものもいる」

 ん。メイペスは既に混乱の極致で目を回しそうだ。


 ヴイレノシュにも、おれはこんな風に見えてたのかな……いや、違う。

 もっと理解できていた筈だ、とパートロは自分に活を入れ直す。


「あ、海で見る、にょきにょきしてるやつや、空を動いてる黒いやつとかも動物?」

「海は、水面から跳ねるのがいるから、そうかも知れないな。空は違うかもしれない。動物もいるが、技術の時もある」

「ランデフェリコの技術みたいな?」

「今日は動物で限定しとこう。技術の話にまでなると、メイペスの頭が破裂するかもしれん」

「ポップコーンみたいに?!」

「あ、そうそう。ぱーんと弾けるぞ」


「ひあ……」

 メイペスが、頭を抱えて小さく震える。

 いかん、びびらせ過ぎたか?と、その様子に怖じ気づいたパートロは、

「やめとくか?」

 と、メイペスの顔色を伺う。

「や。やり遂げてポップコーン食べるんだ」

 明後日の方向向いていた着地点は、来年に向かっていたらしい。

 うーん、今日の収穫は食用の玉蜀黍だと言いにくいぞ?とパートロは思った。


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