3
パートロの後ろについて、とぼとぼと学教室まで来たら、リタフォが今日の当番をしていた。
みんな働いているのにと、むくむくと頭にわき出るが、これが駄目なんだわっ!
気合いを入れるために、自分の両手で頬をぱんっと叩く。
「何やってんだ?」
パートロに冷静に指摘された。
あう、痛い。
「何の音?あら、パートロにメイペスじゃない」
部屋の中からリタフォが顔を出した。
「ああ、リタフォ。すまんが隣貸してくれ。と、今日の……」
「収穫ね。やっとくようにミリタフに言っとくわよ。だから心置きなくメイペスを説教しなさいな」
くすくすと笑いながら、リタフォに誂われて悔しいメイペスは口を尖らせている。
「もう、リタフォ私が子供達みるから、代わってよぉ」
「出来るわけないわよ。把握の代わりなんて」
けんもほろろで、取り付く島も無い。
「諦めろ、メイペス。じゃあ頼んだなリタフォ。ミリタフにも宜しくな」
「ええ、宜しく頼まれたわ。メイペスが駄目なんだろうけど、お説教も程々にねパートロ」
そういうと、リタフォは部屋の中に手を振りながら入っていった。
リタフォは、旅人の末裔の一人でメイペスより十二歳年上の女性だ。
旅人の境遇を一緒に聞いて、二人して抱き合って泣いた。
あれから、一年たつのだな、と思う。
パートロは何でリタフォに【把握】を継がなかったのだろう。
リタフォがミリタフと子作りするのを、止めることだって出来たはずなのに。
そりゃ、ちょっとだけ年嵩かも知れないけど。
子供を生むには十分だ。
ヴイレノシュの任期切れは判っていたはずなのに、どうにも解せない。
「まーた、迷子になってる顔だぞ」
パートロにぽすっと、頭に手を置かれ、取留も無い思考の海から醒める。
「う゛う゛」
言葉にならない声がメイペスから発せられて
パートロは苛めている気分になる。
「メイペスが知りたいって思うことを紙に書いてみろ。待ってるから」
パートロはそう言うと、紙とペンをメイペスの前に置き、窓辺へと移動すると椅子に座って外を眺め出した。
パートロはパートロで、そういやグラスコ・グレコと話すというのも有耶無耶になっていたけど、今朝のアンスタウトとの様子を見るだにアンスタウトが上手いことやってくれたのかな、と思うことにした。
おう、丸投げされたから、丸投げしてやる。
そんなパートロを見たメイペスは、玉蜀黍の収穫をしたいのよね、と明後日の方向に思考を飛ばし、「私、やるわ」と妙なやる気だけを漲らせ、ペンを取った。
兎にも角にも、知りたいことを書き出すのよっ!と、走らせるペンは、先ず【把握】と書き出し、一瞬躊躇してその字を塗り潰した。
違う。これは解ってなきゃいけないことだ。
ねこ、しし、かぎ。
昨夜、アンスタウトに聞きたかったこと。
家族、癒し、子作り、把握。
だから、把握は違うって。
再び、把握の文字を塗り潰す。
ああ、そうだ。
ランデフェリコの技術と似たようなやつ。
グラスコ・グレコはランデフェリコから来たわけではない筈よね?
眼鏡を使わずに見ることが出来る、あれ。
ん。
永住、する、しない。
エデノの外、把握。
無意識に三度、把握と書いて、もしかして実は、私は【把握】の事を一番知りたいのか?と思い、塗り潰した。
「どうだあ?」
どれくらい、紙に向かっていたのだろう。
ぼんやりしたパートロの声で、意識が引き戻される。
「…………パートロ、寝てたでしょ?
目は虚ろだし、何より口!よだれ!」
「まあ、それはそれ。書けたかあ」
睨み付けるメイペスをものともせず、紙を取り上げる。
紙をさっと読んで、塗り潰された【把握】に気が付いたパートロは、
「さあ、一つずつ潰していこうかあ?」
と、いつもと変わらない間延びした、穏やかな口調で言った。
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