一階の殆どが食堂となっているだけあって、ホテルのパーティー会場のようにでかい。

 三千人をさばく都合上か、合理的にバイキング形式を取っているが、メニューは差程多くはなく、至って質素だ。

 パンと、野菜を煮たスープ。

 肉を焼いたもの。

 家庭の大皿料理を思わせる印象が強い。

 果物は、畑には見なかったものもあるようだが、輸入しているのだろうか?おおよそ外交しているようには思えないのだが。


 部屋から持ってきた食器を下げ台に返し、パンとスープを取って空席につく。

 また味気の無いスープかと思うと、気がが進まないが、テーブルには思いの外、多種多様な調味料が揃えてあって、レイノシュが細工しながら味を整えてくれる。ん、旨い。一手間って題辞なんだな。


「グラスコ・グレコさん、レイ・グレコさん、ご一緒してもいいですか?」

 パートロに声を掛けられたので、快く同席を許す。

「今、見ていたんですけど、レイ・グレコさんは何をされていたのです?」

 席に着くなりパートロに訊ねられ、まさか不味いから味付けし直していた、とも言えず考え倦ねていたら、レイノシュが話し出した。

「申し訳ないのですが、少々味が薄いようでしたので、整えさせて貰いました。テーブルに豊富に調味料や香辛料があったので勝手しましたが、問題ありましたか?」と、答えた。


「いえ、全く構いませんよ。そのための調味料ですし。ただ、手際が良いと云うか、手付きが良いと云うか。普段おれなんかは、こうばーっと掛けるぐらいなのに、色々やってたように見えたんで」パートロはレイノシュの手付きを真似してみている。


 レイノシュは、ごろっと入っていた野菜にナイフを入れたり潰したりして、塩や胡椒、スパイスなどで味を整えてくれていた。

 調理とまではいかないが、こうすることで『レイノシュの手が入った』状態にはなるらしい。


「元々ひとりひとりの味覚は違うので、殆どが味付けしてないのですよ。それもあり、テーブルに色々置いてあるわけなんですが……まさか、昼を届けた時メイペスは……」

 パートロの顔がみるみる青ざめていく。

「食事を持ってきてくれたな」

 俺が無愛想に言うと、パートロはテーブルにぶつける勢いで頭を下げた。

「それは大変味気なかったことでしょう。粗忽者で申し訳無い」

 出会ってからまだ数時間のはずのパートロだが、頭を下げるのを見るのは一体何度目だろう?


「謝罪していただく程のことではありませんよ。頭を

上げてください。責任感に駆られた若人にはよくあることです」

 俺は紳士を気取って、定型文で返す。


「そういっていただけると、有難いです。メイペスにはどうしても、経験が足りなくて。最近では新来者も、そう多くはですし」

「元気な娘さんで何よりじゃないですか」

 あ、なんか親父臭い言い方だな、と思ったがパートロが意外そうな顔をして、俺を見てる。

 ?


「いえ、娘と言われたので。あ、ああそうですね。一般的に若い女性の意味もありますね」

「いや、メイペスはパートロの実の娘だろ?それとも、これも秘密だったのか?それなら差し出がましいことを言った。部外者が申し訳無い」

 俺は形ばかりの礼を取る。


「いえいえ、別に秘密ではないのです。皆、知っていることですし。ただ、外の人で気付かれるのは珍しいもので」

「そうか?パートロとメイペスは良く似ているぞ。顔立ちもだが雰囲気だな。メイペスも後、数年経てばパートロ位落ち着くんじゃないか?」

 パートロは嬉しそうでもあるが、どこか困惑している。まずかったんだろうか?


「そうですか、おれもまだまだですね。親子の感覚と云うのは、外の人程無いはずなんですが、どうしても気に懸けてしまう」

 苦い顔でそう言うパートロの方こそ、俺には不思議に思うが、どう考えても定番の言葉しか浮かばなかった。

「親子ってそんなもんじゃないのか。切っても切れない情ってやつだろ?」


 パートロは依然複雑な顔をしていたが、

「グラスコ・グレコさん。若し、気が向かれたらでいいのですが、明日、この階にある学教室にいらっしゃいませんか?勿論、レイ・グレコさんもご一緒に」


「学教室?」

 俺とレイノシュは声を揃えた。


「子供たちに読み書きなどを教えている、外で云う学校でしょうか。大人たちが仕事している間に、まだ幼い子供達を集めて面倒をみているのです。そこで、簡単ではありますがエデノのことを知って頂きたいと思いまして」

「でも、俺たちはまだ永住するか、は決めかねてるぞ?」

「構いませんよ。知ったからといって永住を強制はしません。来るものは拒みませんが、去る者も追いませんから」

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