観測23 『主人公が捧げたブルース』


二〇三三年八月七日十二時〇〇分、ダイラム産業区リップ霊園。


「やあ、ハイト君。ここにいたのかい」


 黙祷をしていると、陽気で場違いな声が後ろから聞こえてきた。

 故人が眠るこの場にはあまりに無粋な声だ。


「エリシアはどこだい?」


「さっきまでここにいたよ。向こうの広場で待ってもらってる」


「そっか。ハオンとアリナだっけ? やっぱり死刑で『ゼレファナ』送りだって。裁判で判決出して、手続きしたら本部の『移送室』から収容されることになるみたい」


「ダイラムと同じく都市が国として認められ、空に延々と浮かび続ける空獄ですよね」


 円を描くように世界中を飛び続け、神能の力によって統治された、一度入れば二度と日の目を見ることはない脱獄不可能と謳われた絶空の大監獄。


「うん。最後に打とうとした注射はハイト君の神能で回収できなかったけど、シムハナとカンキニョスはやっぱり『ペガーテ』のお手製だったみたいだから、執行猶予なしで空獄についたらすぐ処刑だってさ」


「……そうですか」


「私の『働き蟻』にして、ハイト君のために首輪はめて一生飼い殺しにしようとしたけど、やっぱ無理だった。ずっと監視するつもりだったのにごめんね?」


「……いいですよ。それがルールなら仕方ない。てか言い方すごいな。僕ら悪者じゃん」


「はははっ。なんか、上から圧力かけられちゃってさ。ハイト君の昇級と私の昇進だけ言い渡されて有無も言えなかった。罪人の顔すら見せてもらえなかったよ。あとはぜーんぶ、副会長殿が終わらせたらしいよ? よほど『ビュロウ』の元捜査官が欲しかったみたいだね」


「……副会長? ビュロウ?」


 急に新しい登場人物が出てきて困惑する。その人も僕みたいな出しゃばりなのだろうか。


「うん。こっちの状況を全部把握されてたみたい。直談判しようとしたけど、ラミナに止められたよ。まあ、すぐ意味は理解できたから諦めたけどさ」


「……ラミナ先生にも圧力がかけられてるってことか」


「いくら私が信用も信頼もされてないからって、酷いよね~。罪人のこと面白がって拷問するんじゃないかって決めつけられたのには、さすがに傷ついたよ。話の引き合いにされたけど、やっぱマンガに私が実際に体験した拷問を使ったのは不味かったのかな?」


「……はあ~なんだ。結局、全部代表が悪いんじゃん。あーあ、疑って損した」


「…………え?」


 副会長はなかなか好感が持てる人だな、会ったことないけど。

 というか、マジでコイツすごいな。最後に全部台無しにする天才だよ。

 妙にリアルで生々しい描写してるなって思ってたけど、経験談なんだあれ。


「あーまあ、それで結局建てるんだ、お墓。リバークのせいで骨すら残せず、空っぽなのに」


「……代表、分かったから今くらいは静かにしてくださいよ。うるさい」


「はははっ、理解できないから気になってね。だってこれって無駄じゃない?」


 代表は目の前にある二つの墓を見て、他人事のように笑いながらそう言った。

 ――僕が建てると決めたマコとあの子の母親のお墓だ。


「ヒトツ建てれば、次の日フタツっていうけどね。毎日ばんばか死んでくのに、そのたびに墓を作ってたら、キリがないよ。ただでさえ、旧獣のせいで土地は大切だっていうのに、空っぽの墓をこんなバカみたいに作ってさ、みんなどうかしてるよ」


今度はこのリップ霊園にある全ての墓を見渡してそう言った。


「それにほら、見なよあれ」


代表が指差した先には汗まみれで土汚れた作業着を着た男たちが墓を取り壊していた。


「多分、あの墓を建てた親族が死んだか、維持費が払えなくなったんだろうね。あやって誰からも忘れられて、知らない別の誰かの名前がまたあそこに刻まれる。それを何度も繰り返して、最後には何も残らない。それってただの生者の自己満じゃない?」


「いいんだよ別に」


「……そっか。じゃあ、次はあそこを見てよ」


 次に代表が指さしたのは、霊園内でも一際目立つ場所にあるいくつもの墓だった。

 そこには数えきれない量の花が添えられ、視界に入れただけで他とはレベルが違うと分かってしまうくらい、とても丁寧に供養されていた。

 そこら辺にある墓とは明らかに扱いが違うのだ。


「あそこに眠っているのは、教科書に載るレベルの偉業を成した冒険士達だよ。墓の管理は協会がしていて、この先、その名前が忘れられることは未来永劫あり得ない」


「分かるかい? 人間の死は歴史から消えることだ。人間の価値は生前によって決まる。誰からも忘れ去られた人間というのは、口悪く言うなら負け犬といってもいい」


「あそこにいるのは、命がけでこの世界を生き抜いた人間達だ。あそこに刻まれるために多くを失い、多くを犠牲にしてきた。それでも必死に後世に残るような物語を築き上げた主人公達なんだよ」


「そこでようやく墓を建ててもいいと思われる。残してもいいと認められる。ハイト君、そんな主人公達の名が残る場所にさ。金さえ出しとけば、とりあえず名前が刻まれるなんてどうかしてると思わないかい?」


「実をいうと私も差別される立場にいたんだ。つまんない過去だから話さないけど、彼女らが受けた仕打ちと変わらない扱いを受けた自負はある。――でも、人生を諦めたりはしなかった。悲観的になって、受け入れなんてしなかった。そして成り上がったよ」


「だから言わせてもらおう。――目障りだな、この墓。横にあるのもそうだけど、虫唾が走るよ。ここは墓をばんばか建てられるような平和な世界じゃないはずだ。君が死ねば、この墓も取り壊されて別の名前が刻まれるのに。――時間の無駄だよ」


 代表の感情のない無機質な瞳が僕に刺さる。代表と付き合いのない人間なら、今までの無思慮な言葉に憤慨することだろう。だが、僕には代表が何を言いたいのかすぐに理解できた。


「……いつもそうやって悪者演じてるのか?」


「……なんだって?」


 代表は僕を見定めようとしているのだ。品定めといってもいい。

 僕が彼にとって面白い答えが返せるかどうか観察してるんだ。


「これは僕が忘れないようにするための自戒だよ。取り違えた選択によって、引き起こされた汚点であり、僕が犯した罪だ。……もちろん、たった今無駄だと言われた二人への追悼の意味があるのも否定はしないけどね」


「ふーんそれで?」


 代表は僕の横顔をじっと見つめ、次の言葉を待っていた。

 一言も聞き逃しはしないと暗に言っているようだった。


「――ランベルト、いまここに宣言するよ。僕は『主人公』になる」


「――へえ?」


 興味深いといった様子で僕に対して、より強い視線を送った。


「きみ風に言うなら、僕の名前を教科書に刻んで見せよう。誰も文句の言えない偉業を成し遂げ、あそこに名前を刻むことを許される存在になってみせよう」


「――そして、僕という偉人の歴史――年表に彼らの名を刻もう」


 その瞬間、ランベルトはおもしろいマヌケ顔を披露した。

 僕の言葉に目を見開き、大口を開けて驚愕していた。


「主人公ハイトがなぜここまでの偉業を成すことができたのか? 彼の原点とは何だったのか? そこにはある少女との出会いがあった。彼に決意させ、奮起させた『始まりの物語』があった。そんな感じで僕が歴史に刻み込んでみせるよ。これから出会う大切な人たちも含めて、僕と関わった全ての人をね」


「……なるほど、それが『主人公が捧げたブルース』ってことか」


 ランベルトが感心したようにそう言った。どうやら満足したらしい。

 そして、僕はそのまま手に持っていたあるものを墓に供えた。


「それ、は……」


「言ってただろ、漫画を描こうって。さすがにいきなりは無理だけど、絵なら描けるから」


「――――すごい、な……」


 これは彼女の……マコのためだけに描いた絵。記憶喪失で右も左も分からなかった僕が初めて自分だけで生み出したものだ。


「タイトルは『真実を摘まむ者』。無意識下に象られた心の奥底に眠る純粋な夢や欲求……希望の自動現象を表してみた。どうかな……?」


「いや、どうかななんてものじゃないよ。こいつは……」


 ランベルトはなぜか食い入るように僕の絵をずっと見ていた。

 さっきよりも口をあんぐりと開けて、今にも放心しそうになっていた。

 素人絵に対して、まるで稀代の芸術家が描いた絵を見るようなポーズを取っていた。


「いや、実物見たの初めてだったからびっくりしたよ。これが『神才』か……」


「しんさい……? 天才の造語かなんか? 素人の描いた絵に何言ってんの?」


「いや、別に……」


 なぜかランベルトが僕から目をそらした。まさか……。


「……まあ、こんな感じかな? きみ、こういうの好きだろ?」


「――ああ、Super Wonderfulだよ」


 ランベルトの目が輝き、恍惚とした表情を浮かべた。新しい玩具を手に入れた純朴な子供のように見えるが、答えによってはすぐに無関心になってしまいそうだった。


「昔の私はよくやってくれたよ。こんな逸材に目をつけたなんて信じられない」


「そうかな? ならランベルトが僕のファン一号だね」


「……いいのかい? 私のような存在が一号でも?」


「なんなら、ランベルトも僕の物語の登場人物になるんだよ?」


「……Oh、Fantastic。なんて親孝行者なんだキミは……」


「だから、親じゃないって!! そのノリ、本当好きだな。ちょっときもいわ……」


「え~ノリわる~」


 歳が近すぎるって何度言ったら分かるんだよ。


「まあ、とにかく!! 決意表明するつもりだったからしました。はいっ次、代表!!」


「え……私がなに……?」


「さっきのが本心なのは分かるし、品定めと興味本位で圧かけてきたのも分かるけどさ、それ僕以外にやっちゃだめだぞ? ほら、普通に友達いなくなるから!!」


「――私に友達なんていないよ。私は今も昔も一匹狼さ」


「……おう、うん。なんかごめん」


 ああ……地雷を踏んでしまった。代表にしんみりされるとなんか申し訳なく感じるんだよな。


「私ってさ、ちゃんと自覚したクズだから思うんだけどさ。クズにはクズの生き方があって、役割があるんだよ。ほら、世の中正義だけじゃ成り立たないだろ?」


「……たとえば?」


「誰も言いたくないこと、やりたくないことが趣味だからそれに準じたりできるよ。例えるなら、誰かが死ななきゃいけない場面が来て、民間人を守るために部下に死んでくれって命令したりさ」


「あー……」


「それで親しいやつに恨まれる役ってのも滅茶苦茶面白いからさ。そういうやつなんだよ、私って。子供のころから悪魔とか惑星外生命体とか言われたい放題だったし」


「……」


「私はね、ハイト君。面白ければなんでもいいんだよ。なにがどうなろうが面白ければ、それでいいんだ。喜怒哀楽の楽だけ持って産まれた人間なんだよ。君が死のうがエリシアが死のうが、面白いやつだったな~って思って終わり。人間社会に溶け込むために常識ってやつを覚えただけの存在なんだよ」


「…………」


「そうだな~知ってた? エリシアって今はただの化け物だけど、出会ったころは体の夢力量が多すぎて、まともに動くことすらできなかったんだぜ? いつ暴発してもおかしくない状況で、毎日必死になって夢力を消費してた」


「……初めて聞いたよ」


「本人は誰よりも周りの幸せってやつを願ってるけどさ、『争い』がなければ、生きられない体なんだよ。皮肉だよね~でも面白いじゃん。――そういうの」


 なるほど、そういうことか。ようやく理解できた。おかしいとは思ってたんだ。

 ランベルトはエリシアみたいなタイプを横に据えるのを嫌いそうだから。

 なんで一緒にいるんだろうって疑問はあった。

 ――脳死でも勝負に勝てる最強キャラなんて誰よりもつまんないって言う人だから。


「……だからエリシアと一緒にいるんだ。――いつどうやって死ぬか気になるから」


「はははっ、やっぱハイト君は理解が早いね。さっすが!!」


 代表は嬉しそうに取り繕って、僕の頭を撫でた。その笑顔に悪意はなく、あるのは子供が持つような純粋なものなのだと理解させられた。


「こんなやつでも世の中ってのは生きていけるのさ。私はクズであって冒涜師じゃないからね。まあ、理解者が現れることが絶対ないのは……寂しいかもしれないけどさ」


「……」


 代表は……ランベルトはこの瞬間、一欠片も本心を語っていなかった。

 ランベルトは寂しいなんて感情は絶対抱かない。

 むしろ他人に哀れみを向けられることが何よりも嫌いなはずなんだ。

 僕ではまだ彼の本心を引き出すことはできない。

 それがとても悲しくて……悔しい。でも理解した。


 ――センタクシロ、ナニヲカタルノカヲ。


 多分――ここでの対話はこれからの未来を左右する重要な場面なんだ。

 ランベルトと本当の意味で『――』になるための。


「……まあ、そうだな。理解者はできないだろうね」


「……でしょ?」


「でも、友達は作れてるじゃん。それで満足できない?」


「え……?」


 ランベルトの体が完全に硬直した。何を言われたのか分からなくて、言葉の意味が呑み込めていないようだった。


「友達……? 誰が誰の……?」


「僕がランベルトの」


「友達ってなに……私に……?」


「え……? 僕はそう思ってたけど……ランベルトは違うの?」


「え……いや、その……」


 そこで急にランベルトが顔を隠して、もじもじし始めた。

 なんか思ってたのと違って、解釈違いな反応だった。


「えっ!? もしかしてきみ、友達耐性皆無なの?」


「いや……友達なんて初めて呼ばれたから……」


「マジで!? じゃあ今までウザ絡みしてたのなんだったの?」


「……とりあえずコミュニケーションは大事かなって」


「ええ……」


 本心ではあるんだろうけど、予想していた答えと違ったな。

 てっきりもっと強がるものかと思っていたけど、まあ思わぬ収穫だと考えよう。

 ――最悪なのは何も分からないことだったから。


「はははっ……でもそっかそっか、『友達』か。――いいなあそれ」


 ランベルトが体の向きを変えた。墓のない、ここに来た道の方角だ。


「――ハイト。人生の先輩、いや『友達』として一つアドバイスしよう」


 僕とは正反対の方へ視線を向けながら、ランベルトは語る。


「人生なんてクソだよ。どんな世界に生まれたって、幸せのレベルや質が異なるだけで、それだけは同じだ。――世の中は混沌としていて、歪な調和で成り立っている」


 互いに視線が交わることなく、どこまでも平行線を描くように会話が紡がれる。


「何か作ってはそれを壊しての繰り返し。足し算して引き算して、最後はゼロへと戻るんだ」


 それはまるで、互いが相容れるような存在ではないと暗喩するように。


「だから――『他人に迷惑かけていいから好き勝手な面白い人生』を生きろ。他人にどう思われようが気にするな。やりたいことを面白く優先しろ。どうせ冒険士は『死ぬ』のが仕事なんだから」


 "――どんなにつらいことがあってもアナタなら大丈夫。きっと乗り越えられる"


「そしてあの世で誰でもいいから中指の一つでも立ててみろ。――お前の生きた人生じゃ経験できない何百倍も面白い人生を歩んでやったぞってね」


 じゃあ、忘れ物取りに行ってくる。そう言ってランベルトはその場から立ち去った。


「……好き勝手な面白い人生、か。はははっ、ランベルトらしい人生だね」


 彼にはもう聞こえないだろうが、呟かずにはいられなかった。

 僕もまた彼と同じようにその場から立ち去り、エリシアのいる広場の方へ脚を動かした。


「――もうだいじょうぶなの?」


 色んな色と形を持った花で彩られた、誰もいない美しい幻想的な広場。

 そこには僕が知る中で、誰よりも美しい気高い心を持った少女がいた。

 僕はエリシアの前に立ち、聞かれたことに対して頷いた。


「そう……なら――」


「待ってよ、エリシア。――話したいことがあるんだ」


 僕は彼女の口を遮り、美しい宝石の瞳をじっと見つめた。


「……なに?」


 もう逃げることはできない。退路は塞いでしまった。あとは伝えるのみだ。


「僕は誰よりも認められたかったんだ。エリシアに。この世界きてからずっと、僕の隣にいてくれたきみに」


 本当に情けないけど、本来僕は彼女の視界にすら入っちゃいけない弱い人間だ。

 出会った時から強くあれたら、どれだけよかったことか。


「きみの隣にいて相応しい人間になりたかった。――でも今は少し違う」


 ああ、ドキドキする。心臓の高鳴りを抑えきれない。自分の気持ちを言葉に変換するのがこんなに大変だなんて初めて知った。本当なら、もっと彼女に自分の深い気持ちを伝えたい。でも――今は短い方がいい。


「僕はエリシアの隣にいて当たり前の人間になりたい。僕がエリシアを守る。きみのために強くなりたい!! だから――っ!!」


 これ以上伝えるのは、駄目だ。自分に納得がいかない。

 だけど、これくらいは言わせてほしい。というか言わせてもらう。

 ちょうど友達から教えてもらったばかりだし。


「――――――これからずっと僕を見ていてくれませんか!!」


 場所が場所ならやまびこになってしまいそうなくらい大きな声でそう叫んだ。

 これは本来、言ってはいけない卑怯な言葉だ。

 心持ちが変わっただけで、肝心な部分に変化がない僕には許されない言葉だ。

 でも、決意を表さなければ、僕は何も変われないのだと分かったから。

 僕は自分が隣にいて当たり前の存在になるために、まずは『泥』を被ろう。


「――隣にいて当たり前、ずっと僕を見ていてくれませんか……」


 エリシアが僕の言った言葉をかみしめるように呟いた。

 それは古い記憶から何かを探すようでいて、忘れないために言っているように思えた。

 そしてやがて彼女は僕の顔をじっと見据え――


「――ふふっ、すてきだね。そんなこと生まれて初めて言われた」


 滅多に見られない、今までで一番素敵な笑顔を僕に向けてくれた。


「――わたしでよければ、これからもよろしくお願いします」


 嗚呼――本当に素敵だ。また一目惚れしちゃったよ僕……。


「でもね――ハイト。これだけはわたしも自分から言わせてほしい」


 エリシアはそう言いながら、僕の胸に拳をトンッと突きつけた。


「これからもよろしくね――わたしの隣にいてくれるパートナー!!」


 嗚呼――涙が出そうだ。口を開いたら語彙力が死んでそうだ。

 でも――泣くのはまだ早い。それはもっと先の話だ。


「ああ!! よろしく!! 僕の愛しいパートナー!!」


 かくして――『救世主』は『主人公』としての側面を獲得した。


「はーいおふたりさ~ん。おめでと~!!」

 その瞬間、パシャと何かが音を鳴らした。


「えっ!? ランベルト、戻ってきたの!?」


「やだな~ハイト君。忘れ物取りに行くって言っただけじゃ~ん!!」


 びっくりするくらい笑顔のランベルトの手に握られていたのは、カメラだ。


「さあ~お次はみんなで写真を撮ろう!! 私の初の『友達』記念も兼ねてね!!」


「――いいねぇ、あたしらも混ぜておくれよ」


「あねさん!?」


 そうしてウル、メルチー、ポーリ、イブリ、ミゼの今回一緒に戦ってくれたエリシアの旧獣たちが姿を現した。


「おーノリいいね!! じゃあみんなで集合写真だ!!」


「……ふふっ、いいね。とっても嬉しい」


 ランベルトの神能で生み出された一組の『手首』がカメラを持ち、準備は万端。


「じゃあ、みんな!! 飛び切りの笑顔でいこう!! ――ハイ、チーズ!!」


 ランベルトの掛け声とともに、カメラのシャッター音が響く。

 こうしてこの一連の物語は幕を閉じた。

 でもこれは間違いなく、僕の始まりの物語だ。

 この数えきれない『未知』に溢れた世界を僕はこれから歩んでいく。

 それはまさしく夢の旅。これからも続くだろう、僕の大切な現実。



 だから――、



「――これはきっと、僕が死ぬまでの物語だ」



 ドリームトリップ —DRe:am Trip―

 vol.1 『救世主へ捧げるブルース』 結

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ドリームトリップ—DRe:am Trip― 黒種恋作 @kusunokiren

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