第9話
「お前何考えてるんだ!婚約者に喧嘩なんか売ったら、困るのはお前なんだぞ!」
と由衣は非難した。
「曲がりなりにも婚約者だろ」
「あいつのことどうしても好きになれないのよね。嫌な貴族の典型って感じで」と、リザ。
「なんかあいつに合っちゃったせいで気分悪いわ。何か気晴らし、ない?」
過ぎたものはどうしようもないと思い直し、由衣は腰に手を当てて考え込む。
「・・・確かゲームセンターがあっただろ、そことかいいんじゃないか?」
「ゲーセンとかいうやつね、興味出てきた」
二人は階を一つ降り、ゲームコーナーに入った。
彼女は初めて見るカラフルな筐体に目を輝かせていたが、特に興味を惹かれていたのは「アクシロ4」のVR版だ。
「これ、ローがよくやってるやつじゃない。貴族の男の間でもお上品な遊びって流行ってるのに、うちの両親やらせてくれないのよねー」
そう言いながら、筐体のシートに座る。由衣がポケットからコインを一枚取り出して挿入すると、チュートリアルが流れる。
「なんだ、結構簡単なのね」
そう言いながらジョイスティックを握る。CPU対戦が始まると、軽やかにペダルを踏み、ジョイスティックを傾けてボタンを押下し、赤色のマーク表示された敵を撃破する。
「やるじゃん」
「でしょ!?」
ここまで爽快感を湛えた彼女の表情を、彼は見たことがなかった。その勢いで4体を次々と撃破する。
しかし、ボスとの戦いで勢いが削がれた。
「このっ、このっ!」
善戦したが耐久力の高さと機動性に歯が立たず、惜しくも撃墜された。
「あーあ、やられちゃった」
由衣は、不貞腐れた彼女を宥める。
「さっきのCPU、上級者向けだったぞ。・・・そうだもう一戦してみろよ、強くなる方法教えてやるからさ。ローも知らないんだぜ」
その声にピクリと耳を跳ねさせるリザ。
「強くなる・・・?」
彼はニヤリと笑い、得意げに囁いた。
「あのな、まずコントロール・システムをマニュアルにするんだ。で、アクシロのステージって全部宇宙だろ?だからさ、手足を全力で振って・・・」
「リザ!」
ヒステリックな女性の声が、由衣のアドバイスをかき消した。
「お母さん・・・!?」
「あなた、貧民向け小学校の設立に金を浪費したようね?」
と、母は腕を組んだ。
「ええそうよ。それが何か?」
敵愾心を背から放出するリザ。
「なぜそんなことを?」
「父さんが許可したから」
「ッあの人は分家の人間だからそういうことができるんでしょうけどね、そんなものに無駄金注ぎ込むくらいなら、資源開拓に回しなさいよ!」
「どうして!?
昼時で人気のないゲームセンターの空間を、ピリピリとした雰囲気と絶叫が支配する。
「そんなところに金を回したところでアシュクロフト家にリターンがあって!?大学への寄付ならまだわかるわ、高等教育機関に恩が売れるもの。それが貧民に、ですって!しかも初等教育程度に!」
「そういう態度が、いつか貧民の暴動につながるとは思わないの!あの人たちにだって教育の権利はあるはずよ!」
「ないわ!暴動なんてパンとサーカスで何とかなるもの、どうしてわからないの!」
リザは、母親のその一言にいきり立った。
「その選民思想が気に食わないのよ!恵まれない人間を引き上げるのは富む者の義務じゃない!」
「貴族の娘が言うことか!」
母は娘に平手打ちを試みた。それに勘付いた由衣は二人の間に割って入って両手で押しのけ、距離を作る。
「奥様、落ち着いてください!リザお嬢様には私が言って聞かせます、どうかご勘弁を!」
と頭を深々と下げる。
(こんなこと、一日に二回もやってられるかよ!)と内心文句を言いながら、彼は宥めすかして母親の気分を落ち着かせ、リザをクイーンスイートに連れ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます