第6話

翌日。前任の執事から予定表を渡されていた由衣は午前6時に起床。朝食を用意してリザを起こしに言った。

彼女は朝食をレストランに食べに行くことを好まなかった。朝だけは自室でゆっくりと食べたい、らしい。


クイーンスイートの扉をノックするも、返事はない。

しょうがないので合鍵で扉を開けると、彼女はベッドの上で掛け布団にくるまり、すやすやと眠っていた。

体を揺すっても、「あと5分・・・」としか言わない。前任の執事の言葉を思い出しながら

「朝が弱いなんて、あの人言ってなかったぞ・・・」

とぼやき、彼はカーテンを引き開け、窓の液晶ガラスに太陽光を映した。

「まぶしい〜」

「文句言うなよ。もう朝ごはんできてるんだから」

「あと5分って言ってるでしょ〜」

「あのさぁ・・・前の執事にもそうやってたんじゃないだろうな?」

「できるわけないでしょ〜。あんたならいざって時に顧客名簿から消せるから、こうしてわがまま言えるのよ」

「こいつ・・・いい加減にしないと布団引っぺがすぞ!」

「わかった!わかったわよ、起きるから!」


眠い目を擦りながら歯を磨き、リビングの椅子に座るリザの前に、由衣が自室で作った朝食を並べる。細切れのベーコンを入れたスクランブルエッグ、トースト、レタスのサラダだ。

「言っとくけど、私、食事には厳しいからね」

その言葉に、一応の料理を作れる彼も幾ばくかの緊張を覚えた。もし彼女の機嫌を損ねてクビにでもなれば、本来の目的——服を買い、追っ手の持っているであろう身体的特徴から自身をくらませる——が達成できない。

スクランブルエッグをナイフとフォークで静々と食む。

口を開けて一言、

「まあ、及第点ってところかしら」というリザの言葉に彼は安堵した。


「さて、今日の予定は・・・」

由衣は端末を操作し、予定表を眺める。

「まず午前9時から月面の資源運搬用マス・ドライバーの使用交渉、レアメタルの地球輸出条件交渉、それで午後からは13時にコロニーの慈善チャリティーへのリモート講演・・・・・・お前すごいな、こんな大量の仕事を1日で?」

彼は目が眩みそうだった。この量の仕事を任されると思うと寒気がしてくる。


「そうよ。次期当主ともなれば、これくらいするの。これが当主になればさらに多くの会社の話が入ってくるわけだけど。まあ明日が休みだから、今日が忙しいってのはあるわね」

「ふーん・・・明日は何かやるのか?遊びに行ったりとか・・・」

「いつもは寝て過ごすけど・・・遊びに行く、ね。なんか楽しいことしてもいいかも」


楽しいこと・・・祖父の影響で、彼の脳内にある娯楽は小説か映画か釣りだった。

「じゃあ、映画にでも行くか?船内シアターとかあっただろ?」

「いいわねそれ。あんたも行く?」

「俺が?」

「そうよ。私映画初めてなんだから、執事らしくエスコートしてみなさい」

由衣はニヤリと笑った。貴族の令嬢に悪いこと・・・庶民的な娯楽を教え込むことができる。

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