第8話 嬢様のお友達は凄い人です
というか、止めざるを得なかった。
だって――
「み、見ろ!白色に光ったぞ!?」
「すごっ!白だ!」
「白なんて初めてみた!」
「光属性の使い手だ!!」
「聖女様だ!!」
そう。水晶が白色に光るのは、光属性を主に扱うと水晶が訴えている時。
前世の俺は光属性が使えないのにも関わらず、白色に光るもんだから散々試された。『どうしてだ!』『壊れてるのか!』なんて言葉は幾度となく聞いたもんだよ。
「……光魔法ってそんなに珍しいの……?」
クラス中が賑わう中、隣からは
昨日の説明を聞いていなかったとはいえ、光魔法が珍しいことなんて初歩的なこと。
寝る前に寝間着に着替えるぐらいには初歩的なこと……なんだが、嬢様に至っては着替えない時もあるのか。
「珍しいですね。多い時は1年に2人ほど現れますが、少ないときは5年に1人現れるか現れないかの比率です」
「え、ニーナってすごいんだ」
「はい。ここにいる誰よりもすごいかと」
まぁ結局、これまで嬢様に教育を施さなかった俺が悪い。
嬢様にも家庭教師がいたとはいえ、執事である俺がなにも教えていないのが悪い。
(うん、そう言い聞かせよう)
じゃなきゃ嬢様の執事なんてやってけない。
心の中でウンウンと肯定する俺は謎に眉間にシワを寄せる嬢様から水晶から手を離したシュナミブレルへと視線を向ける。したらバチッと目が合い、
「私、結構すごい人みたいだね?」
これまで自分の属性について知りうることがなかったのだろう。
その顔にはこれみよがしの苦笑があり、周りの黄色い視線には答えたくなさそうに視線を逸らしている。
どこかの嬢様とは違ってシュナミブレルは光魔法がどれだけ尊いとされ、どれだけ敬われるのかを知っている。
故にこの表情なのだろう。
ダンジョン攻略の最前線――そして最悪の時が来た時に最終兵器として扱われるのが苦しいのだろう。
書物には『聖女』という輝かしい称号で書かれているが、現実を知るものはこの『聖女』がどれだけ辛いのかを知っている。
前世で『英雄』として苦しんだ俺はもちろん、この事実を知る大人や勤勉な子供たちは知っている。
「静かに!シュナミブレルは確かにすごいが、我が校の1人の生徒だ!単位が取れなければ進学も許されず、技術がなければダンジョンで活躍することもできん!つまり、シュナミブレルも諸君らと同じ土俵に立っているということ!光魔法という才能を持っているが、まだ誰かを守れるような力は持っていない!数日後にはダンジョン実習が始まるが、そこでシュナミブレルに頼りすぎないように精進しろ!」
マエスタ先生も知っているのだろう。
シュナミブレルの表情と周りの騒がしさを考慮しての言葉と、教室中を包み込む声量はあっという間に静寂をもたらす。
そんな静寂の中、突然のお叱り?を受けた生徒たちは困惑気味に傾げた首を隣前後の人たちと顔を見合わせ、けれど否定されることはこの場では許されないのを察知したのか、各々に頭を縦に振る。
突然だったとはいえ、マエスタ先生の言いたいことは理にかなっていた。
というのも、昨日の説明で校長先生が紡いだ『我が校の生徒のプライバシーはひとつたりとも漏らさない』という言葉。
つまり、マエスタ先生と校長先生は『兵器』となりうる光魔法を国に渡すつもりはないと言いたいのだ。
なんとも生徒思いでいい教師たちだ。
(……まぁ、そのことを分かってるのは俺とシュナミブレルだけみたいなんだが)
見て分かる通り、生徒たちの顔には困惑。
首を傾げる者も居れば、不思議そうに友達同士で顔を見合わせるものも居る。
そして俺の隣では、真ん前でマエスタ先生の大声を聞かされてか、今朝見た寝癖よりも髪を逆立てる嬢様はこれみよがしに目をまんまるにしている。
(光魔法の存在を知らなかった嬢様に期待なんて最初からしてなかったが、これは気づく気づかない以前の問題か……)
あまりにも滑稽な姿に失笑が漏れそうになるが、どこか安心に満ちた笑みを浮かべるシュナミブレルを見て失笑は吹き飛んだ。
「ルフくんも博識だね」
刹那、そんな言葉が飛んでくる。
確かに俺はシュナミブレルのことを哀れだとは思った。が、言葉に出したつもりもなければ表情に出した覚えもない。
(いや、自分の顔は反射するものがないと見れないからな。いつの間にか浮かんでたんだろ)
考えても致し方なく、とりあえずその答えに着地をした俺は今度は確実にほほ笑みを浮かべて小さく頭を下げた。
「恐縮です」
俺の気を知ってか知らずかはわからない。はにかみを浮かべたシュナミブレルはそれ以上のことを口にすることもなく、自席の方へと歩いていく。
(てか、俺からすれば君の方が博識なんだがな?)
まぁいいか。今はこれから水晶に触れる嬢様をどうにかしないとな。
「お嬢様。順番が回ってきましたよ」
「え、あ、え?うん。順番ね……うん、うん……」
パチっと瞬きをする嬢様は自分を宥めるように何度か頷き、白縹の髪を整える。
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