第二話〈36人の天才と3人の秀才。それと凡才〉

死んだ事はあるか。

全員の前に立つ女は、そう聞いてきた。


色々ツッコミたい質問ではあるが、とりあえずの俺の答えは。

NO。当たり前だ。死んでたら話せないだろ。

そして、それは周りもそうだ。

此処に座っていると言う事は。目線をあの縁とかいう女に向ける事は。

その証明として十分すぎる。


「うん。誰も無いようだな。まぁ、当たり前だ。」

「知っての通り、いや。もはや、世界の常識として。人生は死んだら終わりだからな。」

縁は話出す。

「どっかでは死者の亡霊だの、呪いだの、祟りだの。自分に不幸が起きた時、人は楽になりたくて、逃げたくて、目を背けたくて。口も目も。どころか心臓や脳すら持たない、存在しない者のせいにする。」


確かに。その通りだ。

死人に口なし。否、愚痴なし。

死者は何も言わず。聞かず。意見せず。

ただただ、風化し忘れられるだけ。


「そして、もう一つ」

縁は淡々と。いや、延々と語続ける。

まるで、教師の様に。教祖のように。


「この世には、危険かつ人の心を魅了する。進化の為の課題が存在する。」

「それはなんだと思う?わかる奴は、四肢のどれかを上げろ」


手以外も挙手に入るらしい。

ただ、それでは挙手ではなく。挙肢だ。


「はぁ。向上心と良い教師は、人生に必要だぞ」

「次からは、指名するからな」

「では、答え合わせといこう。」

「正解は…」


「未知」

「ですよね。おばさん」

縁とかいう女が入ってきた、開け放たれた扉。

そこから、大量のピアスをつけた銀髪ウルフカットの男が入ってきた。

さらに、彼の後ろから隙間を縫う様にして座席に座った2人の男女。

こいつらが、空席だった場所の主か。


対抗どころか、当たり前の様に縁は話し続ける。

「その通りだ。未知。それは、進化の為の導であり。同時に、個人や人類どころか」

「宇宙さえも揺るがす可能性のあるものだ」


「未知は恐ろしい。文字通り通らなければ進めない、道だというのに」

「だがもっと恐ろしいのは。」

「未知を軽く見るお前達だ。」


どういう事だ?未知を軽く?

確かに、未知は知らないからこそあるかもわからない。

そう。まさに、シュレディンガーだらけの道だけど。

だからと言って、軽く。軽視する事はないだろう。


「心の中で、そんな事ない。未知は、最も恐ろしい。」

「そんな思いを巡らせること。大いに結構。」

「ただ、忘れるな。未知とは、そんなに軽くないぞ」


「さて、長く喋ったが。さっきまでの話は忘れてもらっても構わない」

「それがどんな結果をもたらすか。それもまた、未知だからな」


随分と態度のでかい女だ。

でかいのは、身長で十分だろうに。


「では、全員揃った事だし。改めて。」

「私は榎島 縁。お前達の縁を結ぶ教師だ。」


「まず。此処には、3種類の人間がいる。最も多いのは、天才だ」

「人数は36人。次に、秀才。人数は3人」

「最後は……」


凡才。人数は1人。

そう。薄々思っていた。

此処にいる面々の多くは新聞やニュース。

テレビなどで名の知れた天才だ。

そして、さっきの3人。

彼らが仮に本当に最後なのなら。


凡才。それは俺だ。


「さて。要するに、天才と秀才。そこの区別を曖昧した時」

「此処には、39人の才ある者と。たった1人の凡人がいる事になる」


「これからお前達には、期間無限。手段も問わない」

「他人を騙し、化かし。欺き、晒せ」

「つまりは、マーダーミステリーだ。たった1人の真の凡人嘘つきを探し出せ」

「さぁ。始めよう」


「天才と秀才。そして、凡才。」

「最も優秀なのはどの人間か。結果を楽しみしているよ」


こうして、始まった。リアルマーダーミステリー。

それと同時に俺は理解した。このゲームの理を。

俺の勝利はただ一つ。


「全員を殺す事だ」

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