青き夜の戦い

 廃墟を跡形もなく破壊する。

 そこら中に木片が散らばり、隠された月が顔を出す。


 オレは無傷で立っているエーリッツを睨んだ。

 チョッパーを左手に持ち、魔法を準備する。


 エーリッツは剣を肩に担ぐように構える。


「魔力強度をどれだけ近づけようが、お前のそれはブルーラインを突破できていない」


 ……その通りだ。

 青に限りなく近いというだけでライン突破までは達成できていない。ラインの差は数倍にもなる。この間までグリーンラインが限度だったオレが、早々にブルーラインを超えることはできなかった。


「剣士と魔法使い。魔力の消費量も重要度も、オマエの方が上だ。つまり」


 頭上にエーリッツが現れる。


「お前に私は倒せない」


 剣が落ちる。無論避けた。オレの真横で、地が抉れ、土が噴き上がる。


「いつまでその余裕が持つかな? 崩れるときが楽しみだよ」


 肩を震わせながらエーリッツが嗤う。


「ウルフスピリット」


 オーラをそのまま、ウルフスピリットに変換する。

 爪を形成し、振るうが盾に防がれ、剣を振るわれる。オレは盾を蹴ることで剣から逃れた。


 攻防、どちらも優れている。全身鎧であるから盾がなくとも防御力は高いだろう。


 魔力を消費して姿を再現し、名乗りを行うことで修正力を働かせて強固にする。厄介なことこの上ない。


 エーリッツ自身の知名度は薄い可能性を考慮してキマリスの配下ともつけた。頭も悪くないだろう。


 悪魔の貴族の中で特につよき者は人間の世では「神の反逆者」として知れ渡っている。キマリスはそのうちの1柱だ。魔王と72柱だったか。変態アスモデウスやら色々いる。マルコシアスの死ぬ時期がもう少し遅ければ入っていたかもしれないな。オレ的には勝手にひとまとめにするな、と思うが。どこの誰がまとめたんだか。


 おかげでこいつに苦労させられる。


「魔法使いの付け焼き刃で私の盾を抜けるとでも」

「ちぃっ!」


 接近される。鈍重そうな重装備であるのに、それを感じさせないスピードだ。振るわれる剣に対して、チョッパーを振るう。


 スイッチを押して、魔力放出を発動させる。


「ぬおっ!」


 剣を弾く。が、込める魔力が控えめだったせいで飛ばすことはできなかった。


「悪あがきにしかならんなァ!」


 盾を突き出される。攻撃そのものよりも視界を潰されるほうがまずい。跳んでヤツの頭上に行く。


 青いオーラを纏った剣が襲いかかってくる。


「くっ」


 出現させた顎で噛みつく。それで防いだが、射出された剣で遠くまで飛ばされた。


 地面に体が叩きつけられる。


 衝撃で舌を噛んだ。


 剣が離れ、エーリッツの元に戻っていく。オレは立ち上がると口を拭った。袖が血で汚れる。


「これが血の味か……不味いな」


 これを主食にする生物がいるらしいというのが信じられない。人間の味覚だから不味いだけなのか。


 視線を動かす。飛ばされたおかげで、ドールからかなり離れている。しかも、律儀にエーリッツはオレに近づいていた。


「フッ」


 ――好都合だ。


「無駄な時間だ。実力差は覆らない」


 剣を向けられる。


「大人しく首を差し出せ。幸い飾り甲斐のありそうな顔をしている。首さえあれば娘を絶望させられる。儀式も、やり直せるだろう」

「――ハッ。仕方ない。光栄に思え、ってやろう」

「――――はァ?」


 魔力を高める。

 名乗りが有効になるのは人に知れ渡っている名前。人間であれば偉人、またはそれに近い活躍をしている者たち。


 悪魔であれば魔王とつよき者たち。


「まさかメイザース家の名乗りでお前に修正力が働くとでも? 親の七光りで得られる力なぞない」


 エーリッツは嗤う。


「だろうな……ところで、質問だ。古き者たちの中で君主と呼ばれる者。その中でも特に魔王に近いものをなんと呼ぶ」

「悪魔四君だ。アスモデウス様、ベリアル様、ベレト様、ガープ様の4名になる」

「キサマの主は入っていないな?」

「……殺す」


 剣が投げられる。それをチョッパーで弾いて、嗤う。

 息を吸い、声を張り上げた。


「我が名は――ベリアル! 悪魔四君のうちがひと柱!」


 名乗りはかなり不本意だ。特に悪魔四君の部分。誰だ、四天王のようなまとめ方をしたのは。別に仲間ではないぞ。


 修正力を働かせるのに具体的であったほうが良いから使ったが。


 風が吹く。現状何も起こらない。


 一瞬の沈黙の後、エーリッツは大笑いした。


「フハハハ! 何を言い出すかと思えば! ベリアル様などとブラフにしてももっと現実的な……」


 風が魔力を運び、オレに集まりだす。修正力が働き出した証拠だ。オレの頭にあるベリアルの記憶と魔力の質に反応してのことだ。


「魔力が集まっている……? ブラフではない……!?」


 兜が前に出て露骨に驚くエーリッツ。


「ば、ばかな。ベリアル様がここにいるはずがない。どうやって現界したというのだ」


 必死に否定するエーリッツ。


「もしベリアル様だとしても本来の姿を使うには魔力強度が足りないはずだ! ブルーラインでは足りない」

「――あぁ、足りないな。キサマのように完全再現とまではいかないが……キサマを倒せれば良い」

「私を倒すだと? その魔力強度で再現などしようものなら一気に魔力が尽きるではないか。一撃でも凌げば私の勝ちだ」

「ほう? では耐えてみろ。今日はスーパームーンだ。ちょうど大気魔法もかじっていてな」


 修正力とは別に、風で集めていた魔力を身にまとう。それがウルフスピリットを強化し、オレはそれを元に己の体を「バフ」という形で再現する。


 狼が膨れ上がり、形を変える。


「ば、馬鹿な。こんなことが……ありえない!」


 を広げる。オレのウルフスピリットは、青い巨大な竜の姿に変わっていた。


「ア、ア……アァア……!」


 竜を見上げ、情けない声を出すエーリッツ。


 こういう手段は気に入らないが――まぁ、


「我の強大さを前に、己の無価値を知るが良い――!」


 集めた魔力も、己の魔力も全て一撃に込める。


「――ドラゴレイン!」


 竜のブレスが、騎士を焼いた。

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【学園編更新中】人間に憑依した悪魔、弱体化しても無双してしまう 月待 紫雲 @norm_shiun

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