悪魔の騎士

「驚いた。まさか転移をしてくるとは」


 エクテスを警戒しつつ、台から降りる。


 フィンの破壊を発動条件にし、壊れたフィンとオレを入れ替える。完全な転移魔法ではなく位置の入れ替え魔法だ。


 ドールの姿を見る。


 手足を枷で拘束されている。

 指を鳴らして、魔法を発動する。それで枷を破壊した。


「起きれるか」

「うん」


 起き上がろうとするドールを手で制す。


「待て。布を巻いてからにしろ。あとこれを着ると良い」


 外套を脱いで、台に置く。冒険者としての装備のひとつだが、戦闘に役立つものではないので問題ない。


 ドールは自分の体を確認し、顔を赤くした。


「あ、ありがとう」


 胸の上で布を巻き、外套を羽織る。


「学園の教師がロリコンだとはな」

「失礼な。儀式に必要だっただけだ」


 エクテスは余裕な表情のままだ。


「現場も確認したし、発言からも犯罪なのは明らかだ。大人しく捕まるというのなら痛い目を見ずに済むが?」

「はっ、学生風情に何ができる」


 エクテスは魔力のオーラを身にまとう。

 ――青い。


 グリーンよりも上。ブルーラインだ。


 これは、正直予想外だ。


「お前よりも魔力強度はこちらの方が上。ここでお前を消して証拠もなくせばいいだけのこと。だいたい学生程度の証言、誰も真に受けない。こちらが積み上げた信頼というものがある」

「オレはメイザース家だぞ。それに、学生として報告するつもりなぞない」


 カードを取り出してみせる。それを見て、エクテスの表情が驚きに変わった。


「Aランク冒険者だと……?」

「社会的信頼はバッチリ……しかもれっきとした資格、権限だ。実力行使できる」


 依頼ではないが、こういう緊急時であれば事後報告でいい。Aランクになったメリットがここで活かせるとは。


 Cランクであれば金で黙らされる可能性があったが、Aランクとなればそうはいくまい。


「猫を被っていたな、リオ・メイザース……!」

「キサマのようなドブ臭いやつに目をつけられても困るからな」


 鼻を摘みながら煽ると、眉間にしわを刻んだ。

 しかし怒りの表情もすぐに引っ込む。


「まぁいい。転移の魔法も一度の発動が限度だろう。特殊な条件下のみ発動する仕様か? 逃げには使えまい」

「逃げるつもりはないからな」

「ほう。であれば消しやすくてとても助かる」


 黒い霧がエクテスを包む。そして、恐らくヤツの、本来の姿が現れた。


 黒い甲冑に大剣。そして大盾。


「キマリス様の配下、騎士エーリッツ。喜べ、この私に殺されるという栄誉を」


 剣を構え、魔力が増すエクテス改め、エーリッツ。


 ――修正力というのは悪魔という異物を吐き出す機能を持つが、長い歴史の中で悪魔に優位に働く力も持ってしまっていた。


 悪魔の知名度によって存在を強化し、わずかだが、魔力強度を上げてしまう。悪魔を世界に認知させ、そして己の強化をするための名乗りだ。


 人間が戦争において名乗りを上げる習慣をつくってしまったのも相まって、名乗りはその人物の知名度によって周囲におそれを抱かせ、自己を強化する。そんな世界に変わっていた。


 悪魔は現界さえ達成してしまえば力を振るい安い環境になってしまったのだ。


 キマリスはそこそこ人類に知れ渡っている。


 それに。


「エーリッツって、あの首狩り公と同じ」


 震えた声で、ドールが呟く。

 エーリッツという騎士は首狩り公として歴史に名を刻んでいる。


 ――まぁ正直、その詳細はよく覚えてないが。


「同一人物か」


 昔、実際に騎士として名を轟かせ、そして本人であったのなら名乗りは修正力の恩恵を受ける。


 キマリスの配下として、そして恐るべき首狩り公として。どちらも実に効果的だ。


「そうだ。長年、我が主が宿るにふさわしい肉体を探していた。戦場ではどいつもこいつも精神が強く、利用しづらかった。だが、学園であれば立場を利用して洗脳もできる」

「ふむ。なるほど」


 悪魔の貴族騎士か。人でも悪魔でも騎士というのは初めてだな。そもそも現界を成功させる貴族が少なすぎるのだが……。長続きもしない。目の前のエーリッツは騎士としてキマリスを復活させるという目的があるから長続きしているのだろう。であれば、計画性が求められる欲に溺れる心配もない。


 いくら理性的でも現界すれば堪えられない悪魔も少なくないからな。我欲が強いとマルコシアスのように身を滅ぼす。


 潜伏期間が長いのもあって、体も十分馴染んでいるだろう。強さも上級悪魔レッサーとは比べ物にならない。


「希薄な自我。十分な魔力強度。まさにキマリス様の体になるために生まれたようなもの」


 勝手なことを。


「その機会を潰してくれたお前は極刑だ。絶望に沈むが良い」

「ま、待って」


 ドールが叫ぶ。


「い、命なら捧げます。だからリオくんを殺さないで」

「何を言っている?」

「だってリオくんでも悪魔には勝てないよ」


 袖を握られる。


「助けに来てくれて嬉しかったけど。でも、リオくんが命をかける必要なんてないよ」


 涙を流しながらそんなことを言う。


「悪魔は契約なら守るって聞きました。だから私と契約してください。それなら、私は言う通りに」

「――契約内容が不明瞭過ぎる。却下だ」


 殺さないだけの契約なぞいくらでも穴をつける。


「リ、リオくん……でも」

「ドールさん、離れてろ」


 前に出る。とは言え部屋は狭い。ひとまず結界をドールに向けて張る。


「結界の中を絶対に出るな。ヤツに手出しはさせん」

「リオ、くん……」

「クハハ! たかだかイエローラインの魔力強度しか持たぬのに偉そうに。現代のAランク冒険者の質も知れているな。どうせその小娘を相手にしたように小細工で誤魔化してきたのだろう? あのような小細工程度で、私をどうにかできると思っているのか」

「オレが力の差を理解できないとでも」

「ならなぜ立ち向かう。勝ち目などゼロだ!」

「簡単なことだ」


 わかりやすく見せてやろう。


 魔力のオーラを放つ。そして魔力強度を見せる。


「能ある鷹は爪を隠す――人間の言葉だ。教師なら覚えておけ」


 イエローラインから、げていく。


 黄色から緑に。


 緑から色に。


「――なっ」

「ここは狭苦しいな。どれ、広くしてやろう」


 魔力を練る。そして手を上に向けた。


「グレイアームズ」


 頭上にグレイアームズを展開し、20本のアームズで周りを薙ぎ払った。

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