01 秘密
夢から覚めても
静かな初夏の朝。しとしとと降る雨の音に、私は目を覚ました。
夢の中で恭介くんのふりをしていたのは、あの人だった。
――大好きだよ、陽葵
夢から覚めたのに、脳が勝手にあの人の声で再生する。少し低めの、ほのかに甘い声は、耳を塞いでも、頭の中で響き続ける。そっと肩に触れると、夢の中であの人に抱きしめられた感覚が蘇ってきた。胸がきゅぅっと疼く。苦しくて、でも苦しいだけじゃなくて、切なくて、たまらなくなる。自分の部屋にいるのに、いつもと違う匂いがした。甘くて頭がぼうっとするような不思議な匂い。
何度も同じ夢を見る理由も、夢の中であの人が恭介くんのふりをする理由も分からない。でも、この夢を忘れてはいけない気がした。
そのとき、前触れなく、目覚まし時計のアラームが鳴り出した。叩き起こすかのようなけたたましい音に、ハッと飛び起きる。時計を見ると、6時ちょうどを指していた。10分程しか経っていないと思っていたが、40分もベッドの中でうずくまっていた。目覚まし時計を止めると、部屋の中はシンと静かになった。頭の中に響いていたあの人の声はアラーム音によってかき消されたように、聞こえなくなっていた。あの不思議な匂いも、微かに香るようにも感じたが、よく思い出せない。
カーテンの隙間から雨の音が聞こえる。夏が、始まっていく。
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