第3話 見てるだけ①

 これはある店で一緒だった、きらりという女の子の話だ。


 きらりはほっそりとした小柄な体つきで、ともすれば十代半ばに見える童顔だった。アイドルみたいな子だな、と思っていたが、実際地下アイドルでそこそこ人気だったらしい。詳しくは知らないが、何かのトラブルで「卒業」したのだそうだ。


 その容姿と地下アイドル時代に培った客あしらいのおかげかお店では一番人気で、風俗雑誌のグラビアを何度も飾っていた。当然、指名も多く、入れ上げる常連客も多かった。待機所で常連客からもらった高級ブランドのバッグや時計、アクセサリーをよく見せびらかしており、他の嬢からは嫌われがちだった。


 待機所でいつも黙って本を読んでいる私は話しかけるのにちょうどよかったのだろう。よく自慢話の餌食にされた。


「これこれ、指輪コレクション。見て見て」


 きらりは私の顔と本の間に左手を滑り込ませた。

 中指には彼女の趣味とは思えない、比較的シンプルな指輪が五つか六つはまっている。デザインは簡素だが、大粒のダイヤばかりで相当な値段がしそうだった。


「この指一本で一千万にはなるかもね」ときらりが自慢げに笑うので、

「お客さんのプレゼント?」とおざなりに相手をする。

「そうだよ。プロポーズだって」

「プロポーズ?」


 今度は真面目に聞き返してしまった。

 聞けば、本気で恋愛気分になった客から婚約指輪をもらったことが数え切れないほどあるらしい。いま指にはまっているのはその中でもとくに高価なものだそうだ。


「結婚詐欺にならないの?」

「大丈夫。わたしから結婚なんて言ったこともないもん」


 けらけら笑うきらりに、


「いつか刺されるよ」

「大丈夫、あいつら、見てるだけで何にもできないもん」


 きらりは子どものような笑顔を窓に向けた。

 そこははめ殺しの小さな窓で、眺めたところで隣のビルの灰色の壁が見えるだけなのだが。




 数日後、別の嬢からきらりの噂を聞いた。

 入れ上げた客が、借金苦で何人も自殺しているそうだった。

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