第54話 それが彼女に科せられた罰?

     54 それが彼女に科せられた罰?


 彼が目を覚ましたのは――あの激戦から二時間は過ぎた頃だ。


 脳に負荷をかけすぎた彼は、今も意識が曖昧だ。

 頭の中にもやがかかった様で、酷い眠気がする。


「はぁ――っ?」


 それでも彼が焦燥した理由は、あの少女の笑顔を思い出したから。

 自分は寝ている場合じゃないと気付いて、彼こと天井恋矢は身を起こす。

 

 と、偶然そばにいた看護師は、たいそう驚いた。


「って、まだ寝ていなくちゃダメよ。

 あなた、つい二時間前に溺れかけたばかりなんだから」


「……溺れ、かけた? 

 それは、俺一人ですか? 

 他に金髪の女の子は、居なかった――?」


 今も体幹が狂っている恋矢は、それでもベッドからおりようとする。

 看護師は彼の慌てた様子を見て、ありのままを伝える事にした。


「ええ。

 あなたと一緒に女の子も保護されて、この病院に運び込まれた」


「……無事、なんですか? 

 ココは、生きている――?」


 やはり天井恋矢は、篠塚ココの事しか見ていない。

 看護師は、ここでも正直だ。


「……ええ。

 彼女も助かって、きみより早く目を覚ましている。

 でも――」


「――は、い?」


 彼女から全てを聴き、天井恋矢は唖然とする。


 彼は〝そんな事はありえない〟という思いと共に――駆け出していた。


     ◇


 看護師から聴いた病室に――恋矢は着く。


 そこにも看護師が居たが、彼はやはり件の少女だけを直視した。


「コ、ココ?」


 壁を背にして、ベッドに足を伸ばしている、篠塚ココ。

 恋矢の顔を見た彼女の反応は、こうだった。


「……あの、あなたは私の、知り合いですか? 

 もしかして、あなたが私を、助けてくださった?」


 ……あの看護師の言う通り、だ。

 篠塚ココは、ショック性の記憶障害に陥っている。


 彼女は自分が誰なのかさえ、分からない状態だと言うのだ。

 どうやらそれは、天井恋矢も同じ事らしい。


「……本当に、俺の事が、分からないのか?」


「……ご、ごめんなさい。

 私、何も分からなくて」


「………」


 そこまで会話が進んだ所で、恋矢は嘆息しながらこう呟く。


「……何て言うか、記憶を失った人って、みんな敬語で喋り始めるよな?」


「え?」


「……いや、何でもない。

 今のは、質が悪い冗談だった。

 そっか。

 ココは、今までの事を、みんな忘れた」

 

 後に恋矢は、それが何時まで続くか分からないと医師に説明される事になる。

 それは医師でさえ、どうにも出来ない事だと言う。


 つまり彼はこの時点で――〝天井恋矢が知る篠塚ココ〟を失ったのだ。

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