第43話 ピカ――☆って何だ?

     43 ピカ――☆って何だ?


「いえ、いえ、いえ。

 今のは、無し。

 テイク2という事で!」


「……コ、コ」


「テイク2、行ってみましょうか!」


「……本当に、お前なんだな?」


 絶望的な事実をつき付けられた恋矢に、ココのコントにつき合う余裕はない。


 恋矢は眩暈さえ覚えながら、事の詳細を問う。


「何故?」


「んん?」


「何故、ココが埋葬月人なんだ? 

 所長は三年前から埋葬月人は活動を始めたと言っていた。

 それが本当なら、ココはまだ十三歳だ。

 そんな幼い時から、お前は人を殺め続けてきたというのか……?」


「………」


 と、一間空けてから、ココは事実だけを話す。


「それも正解。

 私が埋葬月人として活動を始めたのは、十三の時。

 それから毎年十人は殺してきたから――もう三十人は殺めている」


「……な、ぜ?」


 やはりその理由が分からなくて、恋矢は同じ質問を繰り返す。


「なぜ、そんな、真似を? 

 ココが、殺し屋になった理由は、何だ? 

 まさかココも俺と同じで――殺し屋が家業だった?」


 だが、篠塚ココの答えは、恋矢の予想を僅かに上回る。


「いえ――私は政府公認の殺し屋よ。

 依頼主は政府で、私は主に極悪人を狩って来た。

 でも、天井君に対してそれを正当化する気ない。

 昨日も言ったでしょう。

〝私達は何があっても、合わない関係だ〟――と」


「………」


 すると、恋矢は初めて怒りを覚えた。

 彼は憮然としながら、こう呟く。


「俺に対しては……言い訳さえしてくれないのかよ? 

 頼むから、何か言ってくれよ。

 自分にも事情があるんだって、話してくれ。

 それさえ聴けば、俺だって――」


「――私を赦せる、とでも言うの? 

 それは、天井恋矢が口にする事ではないでしょう? 

 貴方は稼業を継ぐまいとして、家まで出た人なんだから」


「………」


 今度は、恋矢が黙然としてしまう。

 いや、彼が何かを言う前に、ココが口を開く。


「では、分かりやすく勝負をしましょう。

 天井君の推察通り、私の標的は真琴港よ。

 私は七日後に彼女を狩りに行くから、天井君は彼女を護るの。

 仮に天井君が港さんを護りきれたなら、天井君の勝ちでいい。

 でも、港さんを護れなかったなら、私の条件を受け入れてもらう。

 私の業界だと私達の正体に気付いた人に、こう選択肢をつき付ける決まりがあるの。

 即ち、私達の仲間になるか、それとも死を選ぶか。

 天井君には十分すぎる程私達の仲間になる資格がある。

 仮に私が勝ったなら、天井君には私達の仲間になってもらうわ。

 もし私が負けたなら、私は警察に自首をする。

 そういう事で、どう――?」


「……な、にっ?」


 思わぬ提案をされ、恋矢は一度だけ、眉根を歪めた。

 だが恋矢とて、もとは殺し屋一家の一員である。


 普通なら〝バカな事を〟と一笑に付すこの提案を、彼は妥当な線だと割り切ってしまう。


「……分かった。

 それでいい。

 でも、ココは自首までしなくていい。

 単に、殺し屋を辞めてくれれば、それで構わない。

 ……そう、だな。

 俺だって未だに家族を、法的な意味では咎めていないんだ。

 偉そうな事は、言えない」


「成る程。

 では、その案でいきましょうか。

 じゃあね――天井君。

 一週間後を楽しみにしている」


「……なっ?」


 それだけ言い残し、ココはあろう事か、二階建ての一軒家の屋根まで跳躍する。

 そのままこの場を去っていく、篠塚ココ。


 この人間離れした姿を見て――天井恋矢は絶句するしかなかった。

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