第37話




目を覚ますと、隣でハチが寝ていた。


狭いシングルのベッドで

窓から注がれる柔らかい日差しの下、私たちは寄り添うように毛布に包まっている。



これでは家と変わらないな、なんて少しおかしく思った。

ハチの顔をまじまじと見て、銀の髪をさらりと撫でる。



まるで昨日のことが夢だったかのような穏やかな寝顔に、再び眠気が襲ってくる。



頬に手を添えて、次に鼻をつんつんとしてみるとくすぐったそうに眉間にしわをよせたものの、目は覚まさない。


案外起きないもんだな、とそれから懲りずにほっぺをフニフニしてみたり鼻筋をすーとなぞったりして遊んだ。ほんと、きれいな顔してる。羨ましいよ。



ひとしきりそうしてハチの顔を触って遊んでいると「満足か?」とハチがくすぐったそうに眉をひそめて言った。


「うわっ。起きてたの!」


「さすがにそれだけ触られたら起きる」


「へへ、おはよう」


「おはよう」



そう言うと、もぞもぞとハチがにじり寄ってきた。

壁とハチに挟まれ逃げ場のない状況で、ハチがぐっと顔を近づけてくる。壁に頭をぶつけそうになると、ハチが体制を起こして頭に手を差し込んだ。



思わず目をぎゅっとつむると、唇に温かい感触がする。



目を開けるとハチがペロッと舌を舐め「俺も満足」とほほ笑んだ。


き、キスされた?


「え!?今、き、キス」


取り乱す私をよそに、ハチは不思議そうに首をかしげる。


「いつもしてたじゃん。気づいてなかったの?」


「ん?いつも?」


「寝るときと、起きた時」


「キス?」


「キス」



ぜ、全然知らなかった。

いつからだろう、こんなに平然と言うのだから、かなり前からだろう。


「まあ、ユウはいつも寝てたしね」


「だ、だめなんだよ!?寝てる人に勝手にそんなことしたら!」


「あ、赤くなった。危機感が足りないって俺はずっと言ってたのに。だから、男を寝室に入れたらダメだって言ったんだ。こういうことを平気でする奴がいるから」



しれっとした顔でハチは言う。

そんなの知らないよ!男を寝室に入れるなって言葉がこんなにも現実味を帯びたことだったなんて!



「もうハチなんか知らない!」



ふんっとそっぽを向くと、ハチは背中にぎゅっと抱き着いてきて



「俺が何しても嫌いにならないって言った。ユウが昨日俺にそう言ったの忘れてないから」


と言ってくる。言質を取られていた。



「そ、それはなんか違うというか……そういう意味じゃないというか」


「え、あれ嘘だったの。だとしたら俺傷つくんだけど」


「も、もう。嘘じゃないけど!」



振り向くとハチは笑っていた。

あれ? なんか、ちょっと意地悪になってない?



「……俺、頑張るね」ぽつりとハチが言う。


「え?」


「ラルクの護衛になって、ユウに心配もかけないようにする。この国でユウと一緒に暮らすために俺は、そのためなら何でもする」





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