第28話
どちらにしても、心細いことに違いはない。
けれども、ハチが前を向いてこの王宮で働くことを決めたというのに私がこんな風だったら彼はすぐに帰ると言い出しそうだ。
だから、絶対に口には出さない。
お昼休みが終わると、午後は使用人の立ち振る舞いについて学び、夕方になったころにメイド長から「ラルク王子が呼んでいる」と声がかけられた。
「ラルク王子が?」
「ええ、部屋まで来るようにと仰せつかっています。
最初に聞きそびれたのですが、ユウさんは普通の使用人ではないのですか?」
「えっと、どうなんでしょうか。普通のメイドとして雇われているはずですけれど……」
「使用人が第二王子直々にお呼びがかかることなどまずないですから少し不思議に思って」
「そうなんですね。雇われた経緯が特殊なので、そのことで話があるのかもしれません」
「ラルク様が誰かを部屋にお呼びになるのは今回が初めてのことだと思います」
「そうなんですか?」
「ラルク様は15歳の時に実の母親の指金に毒を盛られ生死をさまよったこともあると聞いています。それから一層警戒心を強められたとも。
それからも何度か似たようなことがあったとかなかったとかで……だれも部屋に通さなくなったと」
メイド長はしまったという顔になり口を閉ざしてしまった。
「すみません。今のは聞かなかったことにしてください。部屋まで案内いたしましょうか?」
「今日の朝にあいさつに伺いましたので部屋の場所はわかります」
メイド長に見送られ、ラルク様の部屋に足を向ける。
実の親に毒を盛られた、なんて話を聞かなかったことにするのは無理な話だ。
かといって、深入りすることもないが私の心に釘のようなものが刺さって抜けない。
順調に進めていた足取りが重くなってくる。何の用で呼びつけられたのか分からないのが余計気にかかって憂鬱だった。
あと、迷子になった。
足取りが重くなった原因の9割は、ここがどこだか分らなくなったからだった。
自分のポンコツさ加減を見誤っていた。こんなに広い王宮を一回歩いただけで、ラルク様の部屋までたどり着けると思ったのが愚かだった。
ええい、この際歩き回っていたらいつかは部屋を探し出せるだろう。
そうやってあっちこっちとうろついていたが、同じような装飾の廊下のおかげで自分がいまどのあたりにいるのかもピンとこない。
そしてもうメイド長のいる使用人室の戻り方もわからない、八方塞の状況だ。
気づいたら外へ出ていた。
肩が跳ねるような大きな声が聞こえてきたので、そちらへ向かっていくと、戦闘訓練をしている騎士たちの姿が見えた。
真剣を構え、一対一で剣をふるっている。
その中にハチの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます