第27話
「ユウは会ったことあるの?」
「うん、さっき挨拶に伺って」
「え!? 挨拶に! ラルク様と喋ったのー!?
いいなあ、じゃあ新人の子は皆挨拶に行ってるのかな? 私も一度でいいから喋ってみたいなあ」
スワンは箒にもたれかかる様にして、天を仰いだ。よくよく考えてみれば、新しくきた使用人が王族に挨拶に行くなんておかしな話だ。
もしかすると、私は王宮に雇われているというよりも、ラルク王子に雇われているのかもしれない。
「やっぱり、様子を見に来て正解だったわ。
すっかり手が止まっているわよ。もうまったく、こんなことだろうと思いましたよ」
顔を覗かせたメイド長が呆れたようにため息をついた。
そしてこちらへ近づいてきたかと思えば、私たち2人はまとめてデコピンを食らった。
それなりに容赦がなかったので、お互いに赤くなったおでこを指さしてぷっと笑うと、またメイド長に怒られた。
「まあでも、結構きれいになっているわ。あなたたちの持ち場を見て回ったけれど、どこも丁寧でほこりも落ちていない。
おしゃべりは控えてもらうとしても、この調子で頑張ってください」
メイド長は困った子たちね、というような慈愛に満ちた笑みをたたえながら言った。
「が、頑張ります! これからご指導よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いしますね。
スワンは元気すぎるところが難ありですけど、それを除けば頼りになる私の自慢の娘です。
同僚としても、同い年の友人としても良くしていただけると私もうれしいです」
「も~お母さんそんなこと言わなくていいって」とスワンが頬を膨らませた。
「だってここには同い年の子なんていないし、友達もいないじゃないの」
「そ、そうだけど~。ちゃんとそういうの自分でできるから!」
その仲睦まじい親子のやり取りは私が小さいころずっと夢見ていたものだったように思う。
それは自分には無縁のように思っていたし、もはやおとぎ話の中だけだと信じていたのでいざ目の当たりにすると、すっかり見入ってしまった。
ふと我に返って「これからよろしくね。スワン」とほほ笑んで、スワンが私の首を絞めんばかりに抱き着くとまたメイド長に怒られていた。
「掃除も済んでるようだし、さっさとお昼ご飯を食べてらっしゃい」と私たちはポイっと放りなげられるようにして休憩に入る。
「みんなここでご飯をたべるんだよ」と鼻高々に話すスワンの後ろに続き、お昼ご飯を食べるべく大食堂へと向かった。
王宮では貴族以外の使用人や騎士団、そのほかの従業員は広々とした大食堂にて休憩をとるらしい。
毎日メニューが変わり、好きなものを自分で取っていくビュッフェスタイルのようだ。
それにしても私たちが掃除をしている間はそれほど人とすれ違わなかったというのに、どこにこれほどの人が存在していたのだと目を疑う。
それほどこの王宮が広いということに他ならないのだが、分かっていてもあっけにとられる。
席数もさることながらそもそもこの大食堂が本当に広いのでそれほど混雑している実感もないし、空いている席も簡単に見つけられる。
日本のフードコートとはわけが違うらしい。
良い匂いのするほうへと向かうとメインの肉料理、魚料理、副菜にスープ、パンも何でもあるカウンターがあった。
「これどれとってもいいの?」
「そうだよ! 食べたいものとるの」
「ま、迷う……」
私は目をキラキラさせながら、好きなものを皿に取る。
席へ戻る途中、もしかしたらハチがいるかもしれないときょろきょろしてみたりもしたが、姿を見つけることができなかった。
数時間一緒にいないだけでも、無意識のうちにその姿を探そうとするのだから厄介だ。
この世に産み落とされて最初に見た者を親だと思って後ろをずーっとついて回る雛鳥のように、
この世界で最初に手を差し伸べてくれたハチを親鳥のように思っているのだろうか。
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