第26話
「ラルク様を楽しませられるような話など出来ないと思いますが……」
「そんなの望んでいない。けれど、そうか君はそう受け取るわけだね」
王子は不思議にも寂しそうに言って
「じゃあそろそろ案内しよう」と力なく笑う。
*
それから、メイド長と執事長を紹介され
私は部屋の清掃から教わることになった。
別れ際の王子の様子も気にかかったが、私は私の仕事をしなければならない。後ろ髪を引かれる思いを切り捨てて、しゃきりと背筋を伸ばした。
そして私はひっくり返りそうになるくらい広い王宮を、同い年のスワンという女の子と掃除することになった。
彼女はメイド長の娘で、ここで産まれて、ここで育ったそうだ。溌剌とした性格で無邪気な笑顔が可愛らしい。
「これ今日中に終わるんでしょうか」
私が聞くとスワンは目をキュッと細めて笑顔を作る。
「まさか、私たちだけでやるわけじゃないから心配しなくても終わるよ!……あ、それにそんなにかしこまらなくていいよ、同い年だしさ!」
「えっと、じゃあ。よろしくね、スワン」
「か、可愛い!! なにその破壊力抜群のスマイル!」
スワンが飛び跳ねて私のほっぺたをぷにぷにと引っ張る。されるがままに「うにあ、うなぁ」と口走った。
ぷにぷに、ぷにぷに。私のほっぺは真っ赤になっているんじゃないだろうか。お餅のように捏ねられた挙句、スワンはハッとして
「おっと、こんなことしてたら怒られちゃう。さあお仕事、お仕事!」
と掃除道具を取りにいった。
まず初めに応接間の掃除から。
そして次に廊下、エントランス、階段。
スワンに教えられたように、綺麗にしていく。
小さい頃から働いていたスワンの手際は私と比べ物にならない。
「ねえねえ、ユウは好きな人はいるの?」
箒を持ったスワンがこそこそと訊ねてきた。
「えっ!? ど、どうだろう」
すぐにハチの顔がよぎる。
「へぇ〜いるんだぁ。
分かりやすいね、ユウは」
「スワンはいるの?」
「私ー? 好きな人は居ないけど、目の保養ならいるよー」
「え! だれだれ?」
「第二王子のラルク・シュクイーゼ様!」
スワンがぽっと顔を赤らめる。
なるほど、そうかラルク様は第二王子だったのか。つまり、巷でバカ王子と呼ばれているのは第一王子の方だろう。
しかしそれにしても、私はなんにも知らないんだなあと呆れる。まあ機会があれば第一王子の名前も分かるだろう。
「あの漆黒の髪と憂いた横顔が素敵なのよ!もうなんというか、儚くて!」
「まあ、確かに……」
言われてみれば儚げなところもあるような気もする。というか、なんだろう。儚げ、というよりは疲れていると言った方が正確かもしれない。
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