第26話

「ラルク様を楽しませられるような話など出来ないと思いますが……」


「そんなの望んでいない。けれど、そうか君はそう受け取るわけだね」



王子は不思議にも寂しそうに言って

「じゃあそろそろ案内しよう」と力なく笑う。





それから、メイド長と執事長を紹介され

私は部屋の清掃から教わることになった。


別れ際の王子の様子も気にかかったが、私は私の仕事をしなければならない。後ろ髪を引かれる思いを切り捨てて、しゃきりと背筋を伸ばした。




そして私はひっくり返りそうになるくらい広い王宮を、同い年のスワンという女の子と掃除することになった。



彼女はメイド長の娘で、ここで産まれて、ここで育ったそうだ。溌剌とした性格で無邪気な笑顔が可愛らしい。



「これ今日中に終わるんでしょうか」



私が聞くとスワンは目をキュッと細めて笑顔を作る。


「まさか、私たちだけでやるわけじゃないから心配しなくても終わるよ!……あ、それにそんなにかしこまらなくていいよ、同い年だしさ!」


「えっと、じゃあ。よろしくね、スワン」


「か、可愛い!! なにその破壊力抜群のスマイル!」



スワンが飛び跳ねて私のほっぺたをぷにぷにと引っ張る。されるがままに「うにあ、うなぁ」と口走った。


ぷにぷに、ぷにぷに。私のほっぺは真っ赤になっているんじゃないだろうか。お餅のように捏ねられた挙句、スワンはハッとして



「おっと、こんなことしてたら怒られちゃう。さあお仕事、お仕事!」



と掃除道具を取りにいった。


まず初めに応接間の掃除から。


そして次に廊下、エントランス、階段。


スワンに教えられたように、綺麗にしていく。

小さい頃から働いていたスワンの手際は私と比べ物にならない。



「ねえねえ、ユウは好きな人はいるの?」



箒を持ったスワンがこそこそと訊ねてきた。



「えっ!? ど、どうだろう」


すぐにハチの顔がよぎる。


「へぇ〜いるんだぁ。

分かりやすいね、ユウは」


「スワンはいるの?」


「私ー? 好きな人は居ないけど、目の保養ならいるよー」


「え! だれだれ?」


「第二王子のラルク・シュクイーゼ様!」



スワンがぽっと顔を赤らめる。

なるほど、そうかラルク様は第二王子だったのか。つまり、巷でバカ王子と呼ばれているのは第一王子の方だろう。


しかしそれにしても、私はなんにも知らないんだなあと呆れる。まあ機会があれば第一王子の名前も分かるだろう。



「あの漆黒の髪と憂いた横顔が素敵なのよ!もうなんというか、儚くて!」


「まあ、確かに……」



言われてみれば儚げなところもあるような気もする。というか、なんだろう。儚げ、というよりは疲れていると言った方が正確かもしれない。

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