第24話

私たちは空港を思わせる広さの王宮内の最奥、そこにある王子の部屋へと通された。



「ラルク様、お二人をお連れしました」



執務中のラルク王子がふと顔を上げ「よく来たね」と微笑んだ。



真っ黒で艶やかな、肩につかないくらいに伸ばされた髪。

耳にかけるしぐさは妖艶で思わず目が離せなくなる。


真っ黒な目は人を見透かすような鋭さを兼ねて、バカ王子と巷で罵られているとは思えないくらいに品があるように見えた。


「よく来てくれたね、2人共」



ハチはすでに一度会っているようで、警戒した顔つきでラルク王子と対峙した。背に隠すように私を誘導しているハチを見て、王子はくつくつと喉を震わせて笑う。



「まあまあ、そんなに警戒するなよハチ」


「してない。というか、あんた俺の家に偵察を送っただろ」


「ああ、バレていたのか。君が連れてきたいといったユウさんがどんな人なのか気になってね。思ったより小さくて可憐な方だったからおどろいたよ。君みたいな番犬のそばにいるような子だから、もっと屈強な女性かと思っていた」



「変な目で見るなよ」



「わかってるよ。君の大事な子なんだろ?

護衛で雇ったのに、殺されては元も子もないからね。おっかないおっかない」



ラルク王子は首をすくめ、すっと視線を私に移し、少し屈んで視線を合わせてくれた。



「こんにちは、ユウさん」



いつまでも後ろにいてはいけない、と思って私はすっと手を離し、ハチの背中からひょっこり出る。



「今日からお世話になりますユウです」



ぺこりと頭を下げた。


「うん。じゃあ僕のメイドとして」


「……おい」ハチが低い声を出した。


「うそうそ、そんなことしたら首を掻っ切られそうだから最初は下働きのメイドとして契約させてもらうね。

働きしだいでは昇格もあるから、頑張って」



ぽんと肩に手を置かれ「はい、頑張ります!」と思いのほか大きな声で良い返事をしてしまった。



「クソ、王子」


同じタイミングでハチが悪態をつく。



「それにしても君は口が悪いなあ。まあそれは追って直していくとして……」



それまで完璧なまでの笑みを浮かべていた王子から笑顔が消えた。引き潮のようにあっという間に表情が変わる。



「腰のナイフに手をかけるのは無しだ。

今すぐに離しなさい」



私はそこで初めてハチが腰に手を添えていることに気づいた。背中側にしまわれているナイフはラルク王子の位置からは見えないはずだ。



「……ハチ?」



すぐに警戒をしてしまうことが、彼が生きていく上で身につけなければならないものだったのかもしれない。でも、ハチには信頼して背中を預けられる存在も必要なのではないだろうか。



それは私じゃ叶わない。

ここで私には何ができるのだろうか、ただハチについてきただけなんて、そんなの自分が許せなかった。



はあ、と大きなため息をついたハチは両手を上げ何も持っていないことを示した。


ラルク王子は満足気に頷き、



「よし、それでいい。じゃあまず君は挨拶回りに行ってきなさい。私はユウさんを使用人室へ案内しよう」


と言った。

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