第21話

それから、ハチの過保護度は一気に右肩上がりになったような気がする。今まで以上に、なのだから、もう凄かった。



見た目が王子的なだけあって、その破壊力が心臓に悪い。



今更だが、一緒のベッドで寝ていることも考え直さなければならないと思う。いつもめいめい反対を向いて寝ていたのに、ハチはぴったり私の身体に沿うようにくっついて寝ている。




「ハチ、洗濯させて、ね?」



今まで木の影に腰を下ろし、ぼんやり私を眺めていたハチが、今や彼が私の背中にしなだれかかるような形で洗濯に挑んでいる。



彼曰く「もし後ろから撃たれた時に盾になれるから」だそうだ。盾にならなくていい、と口酸っぱく言ったけれど「嫌だ」の一点張りで全然通じない。



「俺さ」と真面目な口調でハチが言う。


「ん?」


「王宮に呼ばれたんだよね」


それは突然の事だったのと、思った以上に耳元で話されたせいも相まって、危うく聞き逃しそうになった。


「王宮?」


「そう。護衛要員として、こんな得体の知れない男を雇いたいんだとさ。頭悪いよね、自分が殺されるかもしれないとか思わないんだろうか」


「でも、ハチが敵になるよりは味方につけた方がいいっていう気持ちもわかる気がするな」


「ユウは俺に行ってほしい?」


「わからない。けどハチが行くって言うなら私は反対しないと思う……ハチ行くの?」



声に少しの不安が乗っかってしまい、私はしまったと口を噤む。



「……行かない。って前ならすぐ答えられたけど、正直、迷ってる。


俺、汚い仕事ばかりしてお金を稼いでたから、ちゃんと綺麗なお金でユウを養えるならその方がいいような気がして。


でも、王宮へ行くなら、住み込みになるんだ。ユウと離れて暮らすのは、嫌だ」



「それで、悩んでたの?」



「多分、ユウが無事かどうか心配で仕事が手につかない」



「じゃあ、私に護身術を教えてよ。そしたらちょっとは安心出来そう?」


「それはもっと嫌だ。俺のいる意味が無くなる、というか、ユウが強くなったらそのままどっかに飛んでいっちゃいそうで不安」



私はぷっと吹き出す。



「大丈夫だよ、飛んでいったりしないから。もしハチが王宮へ行くって決めてもそうじゃなくても私は賛成するよ」


「……何となくユウはそう言いそうな気がしたけど、俺的になんか嫌なんだよなあ。……あ、そうだいいこと思いついた」


ハチが一際大きく声を上げた。


「ユウも王宮に行こうよ!」


「……え?」



彼が何を言っているのか、わけがわからなかった。呼ばれていないのに、王宮に行けるはずがなかった。


まず王宮に行くには身分証と招待状が必要なのに、私はそのどちらも持っていない。空から降ってきた人には、身分を証明できるものがないのだ。



「それはさすがに……」


「いや、いけるよ。もし一緒に王宮へ来て欲しいって言ったら、ユウは来てくれる?」


「うーん」


あまり実感が湧かないせいで、曖昧な返事になる。まあここにいても、出来ることも無さそうだし、王宮で私も働けるならその方がいいなとも思う。


無理だろうけれど。



「私も働けるならいいかもね」



夢を語るくらいの軽い口振りで言ったものの「やっぱりなし、は無しだから」と彼はニヤリと口角を持ち上げた。

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