第19話
*
師匠をソファに誘導して、しばらく背中をさすっていた時だった、突然喉をヒューヒューと鳴らしながら咳き込み、師匠は胸を押えてうずくまってしまう。
「だ、大丈夫ですか!」
私が驚いている間にも、合間を縫って息をしており、おもむろにキッチンの方に手を彷徨わせる。
そこに何かあるのだと察して、手を伸ばされた先にある引き出しを漁ると吸引器と錠剤が入っていた。
私はそれを持って師匠の所へ戻り、吸引器に錠剤をセットし、砕く。それを師匠の口元へと運ぶと、彼女は大きく息を吐いてそして吸い込んだ。
しばらくすると吹き戻しのような呼吸音が安定し、師匠は苦笑いを浮かべる。
「びっくりさせたね、ごめん。
私、そんなに先が長くないんだ。
……いやあ、それにしても焦っていたのかもなあ、いくらハチのことが心配だったからといっても別世界から人を引っ張ってくるなんて今思えば無茶苦茶だ」
「な、長くないって?」
「そのまんまの意味だよ、あと一年生きられればいいなってくらい」
嘘……。
「それ、ハチは……」
「知らないだろうね。言ってないから」
「そんな……お師匠さんがいなくなったら本当にハチが一人になってしまいます」
「そうだね、私もそれが心配だったんだ。
私はちゃんとあの子のことを愛していた、我が子のように思っていたしそう伝えてきたつもりだったけれど、ついに今の今まで“愛してる”と言葉にしてあの子に伝えられなかった。
ハチが私のことを居候先の主人くらいにしか思っていなかったとしても、ここであの子が一人になってしまったら、何かのタガが外れてしまいそうで……
だから傍で見守ってくれる私のような大人が必要だと私は思った。これは私のエゴね。
この
「私は……ハチに何もしてあげられません。助けてもらってばかりで、何も彼にあげられるものがない」
師匠は私の顔を覗き込んで、ふっと息を漏らして笑った。
「心配ないわ。あなたは私が求めていたものをちゃんと持っている。
ユウ、あなたは誰かを愛すること、愛されることに希望を持っている。
ハチの抱えている大きな暗闇を照らし、引っ張り上げることのできる力よ。
何年あの子のことを見てきたか、今日ここに来た時に一目でわかったわ。ハチが幸せになれる鍵は、あなたが持っているって」
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