第7話

日が沈んでくると、途端に心細くなる。



ハチが早く帰ってくるかもしれないからと、夕食の準備をし終えたところだった。

けれど、待てど暮らせどハチは帰ってこない。


それから、しばらくベッドの上で膝を抱えて蹲っているとノックの音がした。


ハチが帰ってきた! と私はバタバタと扉へ駆け寄った。しかし、浮ついた心も何人かの話し声が扉の向こうから聞こえてきて、冷たい汗が背中を伝う。


これは、良くないやつだ、と思った時には遅かった。扉は蹴り開けられ、ぞろぞろと屈強な男たちが家へ押し入ってきた。


「ほらな、今日は一人みたいだ」


「ほんとだな、あの番犬も全然意味を成してねえ。女ひとり残して、ありゃただの駄犬か」


「嬢ちゃんも災難だな」


気味の悪い笑みを向けられ私は後ずさる。



「こんな上物、ずっと隠しておくなんて無理に決まってんだろ、あいつ」


「来ないで……」


雫の落ちるような声しか出せない自分は、なんにも成長していない。


「控えめでいいね。殴って大人しくさせようのと思ってた手間が省けたぜ」



ずるずると入口へ引きづられていく、掴まれた腕に爪がくい込んで、血が滲んだ。些細ながらも抵抗を続ける私に男のひとりが、苛立った声で脅す。


「てめぇ、殴られたいのか」


その言葉に私の体が強ばる。

首の筋肉が隆起し、硬直する。その言葉は、保護施設で私に向けられたものと同じだった。


薄暗い小部屋の中で、大きな男の人がまだ幼かった私の顎を掴んでそう言った。それが脳裏に蘇る。



もう、抵抗も反抗も出来なかった。糸が切れた人形のように床にへたり込み、両腕を男たちに掴まれて外へと引きづられる。夢でも現実でも私の扱いはこんなものなのだ。この場所で光を見たと思ったのは勘違いだったのだ。



治ったはずの足が軋んで痛んだ気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る