第48話◇あなたに会えてよかった◇

 しばらく沈黙の後、斎藤は言った。

「ありがとう。あなたに逢えてよかった。」

「私も良かったです。斎藤さん、看病大変でしょうけれど、ご自分もお体に気を付けて下さいね。ペンダント大切にします。」

 電話を切った後、瑠璃子は涙があふれてでて止まらなかった。斎藤が病気の妻と瑠璃子のへの思いで、苦しんでいたかと思うと、その誠実さが美しくも痛ましくも思えた。考えてみると瑠璃子も病気の夫や認知症の母親を抱えている。でも、その事を斎藤に言うにはならなかった。と、言うより忘れていた。辛い諸事情を忘れてしまう程、斎藤が瑠璃子を幸せにしてくれた。こうして斎藤とのアラフィフの恋は始まりと共に終わったのだ。

 瑠璃子は、ふと思い出した遠い記憶に浸りながら、ロビーの大きな窓の外の木々に飾られた点滅しているイルミネーションを見つめていた。

「お待たせしました。」

 映画を見ている様に、頭の中に蘇ってきたアラフィフの切ない物語の中にいた瑠璃子を木村が現実に引き戻した。瑠璃子は我に返って、目の前に立っている木村を見た。木村は、アロマオイルボトルが入っているしゃれた赤い紙袋を持っていた。

「わざわざ取りに行ってもらってありがとう。私帰るね。」

 瑠璃子は立ち上がると、紙袋を受け取ろうと手を伸ばした。木村は紙袋を渡そうとせず言った。

「今、見て頂けないのですか?」

「帰ってゆっくり見させて貰うわ。」

 木村は無理強いはしなかった。

「お送りします。」

「良いよ。今日は一人で帰るわ。」

「お送りさせて下さい。」

 瑠璃子は、木村の強い気持ちの表れた言葉に断る事が出来なかった。

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