第41話◇カクテル◇

 瑠璃子に続いて斎藤が言った。

「僕、沢田さんに用事があるのだよ。ごめん。」

「二人で二次会ですか。今夜で最後ですからね。お二人お似合いですよ。わかりました。楽しんで。」

 田中は酔っていて上機嫌だった。

「よかったのですか?」

「良いよ。ホントに用事があるのだから。」

 田中は大阪から来ていたので、二度と会う事もないだろう。

「田中さんには悪いけれど、私バーラウンジに行ってみたいです。一人じゃいけないもの。おしゃれなカクテルありますよね。」

「あると思うよ。僕はバーボンしか飲まないけれど。カクテル好きなの?」

「好きです。今治ではカクテル飲める所はあまりないので楽しみです。私、お酒は好きなのですが、たくさんは飲めないのですよ。少しで酔えるショートカクテルだと何種類も飲めるでしょ、だから好きなのです。」

「僕も薄めて飲むのは好きじゃないのだよ。専らバーボンのロックだね。」

 瑠璃子と斎藤はエレベーターへ向かった。最上階に着くと斎藤はスカイラウンジに案内してくれた。

「ここにはよく来られるのですか?」

 歩きながら瑠璃子が聞いた。

「良くでもないけれど、家から近いからね。たまにね。」

「奥様とですか?」

「いや、家内は飲まないから。一人が多いかな。ここだと知り合いに会うこともほとんどないしね。」

 まっすぐ廊下を進むと、天井から床まである大きなガラス窓に横浜の夜景が輝いていた。瑠璃子は思わず窓ガラスに駆け寄った。

「綺麗ですねえ。さすが横浜だわ。」

「そうだね。そっちだよ。ラウンジは。」

 中に入ると客はまばらだった。幸いな事にさっきの研修会の参加者はいなかった。二人は百八十度の夜景が見渡せるバーカウンターの端に座った。

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