第40話◇苦い記憶◇
セミナーは十三時から十七時までの四時間で、最初の二時間は講師の講演があり、漢方の基本的な講座があった。その後、三十人程の参加者を六人ずつに分けた質問などのグループディスカッションが二時間あった。その時、同じグループにいたのが斎藤だったのだ。
瑠璃子のグループは六人で、年齢は三十代から六十代、男女三人ずつ、若手とベテランが半々くらいだった。ディスカッションは話がしやすようにスクール形式から四角経にテーブルが並べ替えられた。初めて隣に座ったのが斎藤だった。斎藤は鍼灸師の資格を持っていて漢方薬を専門に取り扱っていると言った。知識豊富で何を聞いても分かり易く説明してくれて頼りになった。
斎藤は背が高く細身でスーツが良く似合う田舎ではあまりお目に掛かれない中年の紳士だった。当時斎藤は五十五歳、瑠璃子は四十八歳だった。いつも隣同士に座り、気軽に声を掛けてくれ、熱心にいろいろ教えてくれるようになった。メールアドレスを交換し、店でわからない事があると個人的にメールや電話で教えて貰うようになった。斎藤は、。セミナーに来ると必ず瑠璃子におしゃれな横浜のお菓子をお土産に持ってきてくれた。瑠璃子は、月一回のセミナーに出掛けるのがその当時の唯一の楽しみだった。半年後にセミナーが終わる頃には、瑠璃子の斎藤を見る目は尊敬する先輩から憧れの人に変わっていた。親しく付き合ううちに、お互いに伴侶がいる事はわかっていた。楽しかった半年の研修会は瞬く間に過ぎ最後の日を迎えた。研修会最後の日は、横浜のホテルで開催された。講座の後に懇親会があった。その日は帰らず瑠璃子は会場のホテルに予約していた。懇親会が終わると、隣にすわっていた斎藤と会場の外に出た。
「ここ、最上階に夜景が見えるラウンジがあるのだよ。二次会に行かない?今日で最後だし。沢田さん今日ここに停まるのでしょ?」
このまま別れるのはしのびないなと思っていたので斎藤の申し出は嬉しかった。横浜のホテルのラウンジなどめったに来ること等ないだろう。その時、同じグループだった三十五歳の田中が瑠璃子と斎藤を見つけて近寄って来た。
「探していたのですよ。これから二次会行くのですけど一緒に行きませんか?」
「ありがとう。明日早いから遠慮しておくわ。」
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