第37話 ◇二人きり◇
「お連れ様のデザートは、お出しして良いですか?」
デザートはハロウィンのカボチャのケーキだった。十分程して木村は席に戻った。息が切れていた。
「すみません。お一人にして。」
木村は喉が渇いていたのか、席に着くと、テーブルに置かれていた水を勢いよく飲んだ。
「中村さん、大丈夫ですかね。」
木村は心配そうに言った。瑠璃子は木村のグラスにワインを注いだ。
「彼氏、迎えに来たの?」
「ええ。暗くてよく分からなかったのですが、優しそうな方でしたよ。僕も中村さんにボーイフレンドがいらっしゃるなんて知らなかったです。」
「私も。最近コロナ禍で、あまり会っていなかったから。佳乃子さんコロナじゃないと良いね。コロナだったら私達も危険かも。明日また連絡してみるわ。」
「お願いします。」
「佳乃子さんのお肉食べたら?」
瑠璃子は木村の前にステーキの乗った皿を勧めた。
「瑠璃子さん召し上がってください。」
「私はお腹いっぱい。あなたは若いのだから食べられるでしょ。このステーキ小さいもの。」
木村は、恐縮しながら目の前のステーキにナイフを入れて口に運んだ。若い男性が肉に食いつく姿を見ていると頼もしく思えた。瑠璃子は、木村の背後に広がる真っ黒な闇に染まったガラスに映った自分の姿を見ながら、年老いたなと感じた。
「やっぱり還暦だわ。」
瑠璃子は木村の空になったグラスにワインを注ごうとした。
「自分でやります。」
そう言って木村は瑠璃子の手からボトルをとると静かにグラスに注いだ。
「ワイン無くなりましたね。何か飲まれますか?」
「私は良いわ。デザートが来たからコーヒー頂くわ。」
瑠璃子はデザートのカボチャのケーキを口に運んだ。
「ハロウィンですか。」
「そうねえ。ハロウィンは十月三十一日だって。ようやく緊急事態宣言も解けたから、今年のクリスマスは木村さんは奥様とそれこそホテルでディナー?コンクールも優勝したしね」
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